空
くう
śūnya; śūnyatā
仏教用語。すべての存在は,直接原因,間接原因によって成立したもので,存在にはその本質となるべきものがないと説き,これを空という。この思想は特に般若経典に多く説かれ,また,ナーガールジュナ (龍樹,150頃~250頃) によって体系化された。彼によると,この世のすべてのものは,本質的に空である (真諦) が,それを相対的な日常的立場からは存在とみる (俗諦) 。彼の思想は,その弟子アーリヤデーバ (提婆) に継承され,やがて中国,日本に伝えられ,三論宗となった。
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うつお〔うつほ〕【▽空/▽虚/▽洞】
1 中がからになっていること。また、そのようなもの。うつろ。うろ。
「この唐櫃(からびつ)をこそ心にくく思ひつれども、これも―にて物なかりけり」〈今昔・二九・一二〉
2 岩や樹木にできた空洞。ほら穴。
「いかめしき牝熊、牡熊、子生み連れてすむ―なりけり」〈宇津保・俊蔭〉
3 上着だけで、下に重ねるべき衣類を着用しないこと。
「短き衣―にほうかぶって、帯もせず」〈平家・八〉
4 葱(ねぎ)をいう女房詞。
[補説]発音は、古くは「ウツホ」、その後「ウツヲ」「ウツオ」と変化したという。また、「ウツボ」と濁音にも発音されたらしい。
うつせ【▽空/▽虚】
1 貝殻。うつせがい。
「いかなる様にて、いづれの底の―にまじりけむ」〈源・蜻蛉〉
2 中身のないこと。から。空虚。
「手を通さねば便なき袖は―のうちかけ姿」〈浄・聖徳太子〉
から【空/▽虚】
《「殻」と同語源》
[名]内部に物のないこと。からっぽ。「―の箱」「家を―にする」
[接頭]名詞に付く。
1 何も持たないこと。何も伴っていないこと。「―馬」「―手」
2 実質的なものが伴わないこと。うわべや形だけで役に立っていないこと。「―元気」「―回り」「―手形」「―世辞」
くう【空】
[名]
1 天と地との間。大空(おおぞら)。空間。「空を切る」「空をつかむ」
2 《〈梵〉śūnyaの訳。うつろであること、ない、の意》仏語。すべての事物はみな因縁によってできた仮の姿で、永久不変の実体や自我などはないということ。
3 「空軍」の略。「陸海空」
[名・形動]
1 何も存在しないこと。また、そのさま。うつろ。
「彼は―な懐(ふところ)をひろげて」〈藤村・家〉
2 事実でないこと。よりどころのないこと。また、そのさま。
「決して自己弁護の―な言草じゃあない」〈里見弴・今年竹〉
3 無益なこと。また、そのさま。むだ。「今までの努力が空に帰した」
そら【空/▽虚】
[名]
1 頭上はるかに高く広がる空間。天。天空。「東の―が白む」「鳥のように―を飛び回りたい」「―高く舞い上がる」
2 晴雨などの、天空のようす。天候。空模様。「今にも降り出しそうな―」
3 その人の居住地や本拠地から遠く離れている場所。または、境遇。「異国の―」「旅の―」「故郷の―を懐かしむ」
4 (多く「そらもない」の形で)心の状態。心持ち。心地。また、心の余裕。「生きた―もない」
「観菊などという―は無い」〈二葉亭・浮雲〉
5 すっかり覚え込んでいて、書いたものなどを見ないで済むこと。「山手線の駅名を―で言える」
6 家の屋根や天井裏、木の梢(こずえ)など、高いものの上部。てっぺん。
「それがしが木の―にゐれば」〈狂言記・柿山伏〉
[形動ナリ]
1 他に心を奪われ、ぼんやりして当面の事柄に対応できないでいるさま。うわのそら。
「たもとほり往箕(ゆきみ)の里に妹を置きて心―なり土は踏めども」〈万・二五四一〉
2 はっきりした理由もなく事が起こるさま。偶然。
「二人の人、同じ夜、―に相会へり」〈今昔・九・三三〉
3 確かな根拠もなく推量するさま。
「それ、しかあらじと、―にいかがは推し量り思ひくたさむ」〈源・帚木〉
[接頭]名詞・動詞・形容詞などに付く。
1 それらしく思われるが実際はそうでない、という意を表す。うそ。いつわり。「―涙」「―笑い」「―とぼける」
2 実体のない、事実でない、などの意を表す。「―耳」「―音(ね)」
3 あてにならない、信頼できない、などの意を表す。「―頼み」
4 はっきりした理由のない、わけのわからない、なんとなく、などの意を表す。「―恐ろしい」「―恥ずかしい」
むな【▽空/▽虚】
[語素]名詞の上に付いて、何もない、空虚である、の意を表す。「―手」「―言(むなごと)」
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空【くう】
仏教の根本概念。原始仏教では瞑想(めいそう)の対象。《般若経》では悟りに達するために,すべての存在を〈空〉と観じ,執着を離れることを内容とする。それは自性空(じしょうくう)と呼ばれ,すべての存在自身固定的存在でないことを意味する。竜樹によれば自性空なるゆえに,存在は縁起による。
→関連項目僧肇|大乗仏教
空【そら】
太陽光線は地表に到達するまでにその一部が空気分子などによって散乱し,短い波長の色光は長いものより散乱する割合が大きい。このため細塵(さいじん)が少なく,晴天の時には空が青く見える。粒子の大きい細塵層を通過すると波長の長い赤まで散乱して,白く見える。日出・日没時には,やはり光の散乱の関係で朝焼け,夕焼けが見られる。宇宙空間では太陽光線を散乱させる空気分子がないので,空は暗黒である。気象観測においては,空に現れている雲の状態を総合的にみてその特徴をとらえ,〈空の状態〉を定義し,これを天気図解析に役だてる。これは上層,中層,下層の状態に大別され,それぞれ10種に細分してある。
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空
日本のポピュラー音楽。歌は女性シンガーソングライター、五輪(いつわ)真弓。1986年発売。
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そら【空 sky】
気象学的には人の目に見える範囲を空とよぶ。
[空の形]
われわれは空を地平面で区切られた半球だと思っているが,実は押しつぶした丸天井または鏡餅のように,いくらか扁平に知覚しているらしい。人間が地平線から高度45度と思う所を高度計で測ってみると,35度ぐらいしかない。また太陽や月が地平線に近いときには特に大きく見えることから,人は天空を市女笠(いちめがさ)のような形に知覚していると主張する心理学者もある。
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くう【空】
〘名〙
① 天と地の間。そら。空間。虚空(こくう)。
※俳諧・本朝文選(1706)三・賦類・旅賦〈許六〉「天龍の中の瀬は、馬人足を空にまとふ」 〔王維‐送秘書晁監還日本国詩〕
② うつろ。から。空虚。
※猿法語(1761)一心法界といふ弁「死しての後空と成りて何もなき所そと心得て」 〔後漢書‐陳蕃伝〕
③ (形動) 事実でないこと。根拠のないこと。
※今年竹(1919‐27)〈里見弴〉あやめの客「決して自己弁護の空(クウ)な言草ぢゃアない。立派にほんとのことなんだ」
④ (形動) 無益なこと。無意味なこと。むだ。
※隣語大方(18C後)三「惜歳月を空に送らしゃれては生れながら知事が成ませふか」
※歌舞伎・𢅻雑石尊贐(1823)序幕「惚れた男の名所も聞かず、頼みは目尻の黒子一つ、思へば空(クウ)な尋ねもの」
⑤ 仏語。天地間の一切の事物はすべて因縁より起こるものであってその実体も自性もないとする考え。二空、三空など、さまざまに数える。空裏(くうり)。
※往生要集(984‐985)大文一「見二身実相皆不浄一、即是観二於空無我一」
※平家(13C前)一一「善も悪も空(くう)なりと観ずるが、まさしく仏の御心にあひかなふ事にて候也」
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