龍樹(読み)りゅうじゅ

精選版 日本国語大辞典 「龍樹」の意味・読み・例文・類語

りゅうじゅ【龍樹】

  1. ( [梵語] Nāgārjuna の訳 ) 南インドのバラモン出身の仏教者。中観学派の祖。空(くう)思想基礎づけて大乗仏教を宣揚し、八宗の祖師といわれる。著書に「中論(中頌)」「十二門論」「大智度論」など。龍宮から「華厳経」を持ち帰ったという伝説は有名。ナーガールジュナ。(一五〇頃‐二五〇頃

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「龍樹」の意味・わかりやすい解説

龍樹
りゅうじゅ
(150―250ころ)

インドの最大の仏教学者。原名はナーガールジュナNāgārjuna。南インドの出身。当時のインド諸思想を学んだのち北インドに赴いて、仏教、とくに新興の大乗仏教思想に通暁して、その基礎づけを果たし、晩年は故郷に帰った。主著に『中論』『廻諍(えじょう)論』『大智度(だいちど)論』『十住毘婆沙(じゅうじゅうびばしゃ)論』『ラトナーバリー』その他がある。『中論』において確立された空(くう)の思想は、彼以後のすべての仏教思想に最大の影響を与えている。すなわち、実体(自性(じしょう))をたて、実体的な原理を想定しようとするあり方を、この書は徹底的に批判し去り、存在や運動や時間などを含むいっさいのものが、他との依存、相待、相関、相依の関係(縁起(えんぎ))のうえに初めて成立することを明らかにする。そしてその相関関係は肯定的、否定的、矛盾的などさまざまな姿があり、いずれをとっても独立存在は不可得であって、空といわざるをえない。その究極の絶対的立場真諦(しんたい)・第一義諦)は、言語表現に基づく日常的な真理(俗諦・世俗諦)によりつつ、それを超越して、語られず、表現されえない。空の立場からすれば、一方に偏ることがないから、それは中道ともいわれ、彼の学派は後世中観(ちゅうがん)派とよばれた。後代のインド、チベット、中国、日本の大乗仏教のすべてから、龍樹はおのおのの「祖」として尊敬される。

[三枝充悳 2016年12月12日]

『梶山雄一・瓜生津隆真訳『龍樹論集』(『大乗仏典14』1974・中央公論社/中公文庫)』『三枝充悳訳注『中論』全3巻(第三文明社・レグルス文庫)』『中村元著『ナーガルジュナ』(『人類の知的遺産13』1980・講談社)』『瓜生津隆真著『ナーガルジュナ研究』(1985・春秋社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「龍樹」の意味・わかりやすい解説

龍樹
りゅうじゅ
Nāgārjuna

[生]150頃
[没]250頃
インドの大乗仏教を確立した僧。サンスクリット語ナーガールジュナの音訳。龍猛,龍勝,または龍樹菩薩とも呼ばれる。南インドのビダルバの出身という。シャータバーハナ朝の保護を得て,ナーガールジュナコンダを仏教研究の中心地とし,セイロン,カシミール,ガンダーラ,中国などから来た僧侶のために僧院を設けた。ここで盛んであった大衆部のほかに上座部説一切有部,さらに大乗経典を研究し,『中論』を書いて中道説を完成し,いわゆる大乗仏教の根本を確立した。ほかに『十二門論』『空七十論』『大智度論』『十住毘婆沙論』などがある。

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