中道(読み)ちゅうどう

精選版 日本国語大辞典 「中道」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐どう ‥ダウ【中道】

〘名〙 (古くは「ちゅうとう」とも)
① 道路のまんなか。みちの中央。また、中央にある道。
※菅家文草(900頃)三・晩春遊松山館「転移危石開中道、分種小松属後人」 〔礼記‐曲礼上〕
② 物事を達成する途中。中途。なかば。中路。
※中華若木詩抄(1520頃)上「中道にして、学をすつることあり」 〔論語‐雍也〕
富士山の登山者が、その中腹をめぐること。また、その道。おちゅうどう。
※洒落本・大抵御覧(1779)「少時(わかきとき)より富士浅間を信仰し奉りて〈略〉山の中腹をめぐるを中道(チウトウ)といふ」
④ 極端に走らない、中正の道。一方に片寄らない穏当な行き方。
毎月抄(1219)「誠に哥の中道は、唯自ら知るべきにて侍り」 〔易経‐蠱卦〕
⑤ 仏語。二辺のいずれにも偏しない、中正の道で、絶対真実の道理をさす。ただし、この意味するところは諸宗により異なる。→八不中道
法華義疏(7C前)二「閑謂中道。林譬万徳。言仏智優遊中道之理。安処万徳之林也

なか‐みち【中道】

〘名〙
① まんなかの道。土地の中央に通じている道。
※古今(905‐914)恋四・六七九「いその神ふるのなかみちなかなかに見ずはこひしと思はましやは〈紀貫之〉」
② 二人の間の通い路
※源氏(1001‐14頃)総角「はるかなる御なかみちを急ぎおはしましたりけるも、うれしきわざなるぞ、かつはあやしき」
③ 道のなかほど。また、物事の途中。中途。
※狂歌・銀葉夷歌集(1679)五「一言の主は何とか岩橋の中路に立役のうばそく」
④ 富士登山者が、その中腹を横にめぐること。

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デジタル大辞泉 「中道」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐どう〔‐ダウ〕【中道】

一方にかたよらない穏当な考え方・やり方。中正な道。「中道を歩む」「中道を旨とする」
物事の進行のなかほど。達成する途中。「志むなしく中道で倒れる」
富士山の中腹をめぐる道。また、その道をめぐること。「中道めぐり」
仏語。二つの対立するものを離れていること。不偏で中正の道。原始仏教では苦行と快楽の両極端を退けた考え方。竜樹の哲学ではすべてのものはくうと観じること。天台宗では空・の二辺に即して立てる実相の理である中諦ちゅうたい
[類語]中間あいだあわい中程なかほどちゅうくらい中庸中形中立ミディアム中正不偏不党ニュートラル中間的中性

なか‐みち【中道】

まんなかの道。土地の中央、山の中腹などを通る道。「中道を通って下山する」
二つのものの間の道。
「思はずに井手の―隔つともいはでぞ恋ふる山吹の花」〈真木柱

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改訂新版 世界大百科事典 「中道」の意味・わかりやすい解説

中道 (ちゅうどう)

極端な見解や実践を離れる仏教哲学の基本的立場。サンスクリットでマドヤマー・プラティパドmadhyamā pratipadという。釈迦は最初の説法において,欲楽に耽ることと苦行に努めることを否定し,八正道によって修行すべしと説いた。これを〈苦楽中道〉という。このように中道は,二辺を離れることとして理解されるが,苦楽だけではなく,有無,断常,一異等の対立概念も二辺すなわち極端な見解とされ,それによって中道も多種となる。大乗の中観派の祖である竜樹は《中論》において,縁起と空性を中道とみなした。また,いっさいの法(存在)は世俗においては無ではなく有であり,勝義においては有ではなく無であるということが中道である,とも中観派は説いている。中国仏教においても中道の分類は多岐を極め,三論宗の吉蔵は,空にも有にもとらわれない無得正観(むとくしようかん)に住することを中道であるとし,また世俗の存在を実法は滅するが仮名は存続するので不常不断と見る〈俗諦中道〉,究極の立場から見れば不常でも不断でもなく空(無自性)なのだとする〈真諦中道〉,俗の立場にも究極の立場にもとらわれない〈二諦合明中道〉の3種を説いた。天台宗の智顗(ちぎ)は《中論》に基づいて空(存在には自性,実体はない),仮(ただし空も仮に説かれたことである),中(空にも仮にもとらわれない立場)の〈三諦円融〉を主張し,すべての存在に中道という実相が備わっているという〈一色一香無非中道〉を説いた。日本の法相宗においても,唯識派の三性説に基づいて,認識のあり方は,(1)実体と誤認する,(2)因縁によって生じたと見る,(3)実相をありのままに見る,の3種に分かれるが,これらは全体としては有でも無でもない中道をあらわすとする〈三性対望中道(さんしようたいもうのちゅうどう)〉等の説がなされた。
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中道 (ちゅうどう)

もともとは道の中央あるいは中庸公正な道の意であるが,政治用語としては,一般的に左右の政治勢力の中間に位置する政治的立場を指す。このような立場を標榜する政党が〈中道政党〉であり,この種の政党の典型としてあげられるのが,西ドイツのキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)とドイツ社会民主党(SPD)の中間に立ち,1949-66年にはCDU/CSUとの,69年以降はSPDとの〈小連立〉に参加してきた自由民主党FDP)や,社会主義なしの社会改革を主張し,政治的スペクトル上で保守党労働党の中間点を占めるイギリス自由党,さらに労働党よりは穏健で保守党ほど保守的でない立場を唱えて労働党からの離脱者を中心に81年3月に結成されたイギリス社会民主党などである。日本で中道勢力をめぐる論議が盛んになってきたのは,1970年代後半以来の1955年体制崩壊期においてで,〈55年体制〉下の保守・革新の二分法的政治勢力配置状況のなかで,その中間に立つ第三勢力として台頭してきた諸政党が中道勢力と呼ばれてきたが,とくに公明,民社,社会民主連合のみを指して〈中道3党〉という場合と,これに新自由クラブを加えて〈中道4党〉という場合がある(新自由クラブは1986年解党)。また,79年12月に公明,民社両党間で合意が成立した〈中道連合政権構想〉では,共産党を連合政権の対象としないことを明示し,さらに〈自民党との連合または連立は行わない〉ことを党首確認事項として公表した。
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中道 (なかみち)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中道」の意味・わかりやすい解説

中道
なかみち

山梨県中部,甲府市南部の旧町域。甲府盆地の南部に位置する。 1955年右左口村と柏村が合体して町制。 2006年甲府市に編入。中世には甲府盆地と駿河を結ぶ中道往還 (右左口路) が御坂山地にかかる交通の要衝であった。町名は中道往還にちなんでつけられた。北部は笛吹川に接した水田地帯。南部は御坂山地北麓の曾根丘陵でクワ畑やスモモなどの果樹園が広がり,トウモロコシの栽培も行なわれる。丘陵地には国指定史跡の銚子塚,丸山塚のほか,二十数ヵ所に及ぶ古墳や旧石器から縄文,弥生時代にわたる遺跡が分布し,一帯は県立公園として整備されている。

中道
ちゅうどう

仏教用語。執着を離れ,正しい判断をし,行動すること。釈尊以来,仏教の伝統的スローガン。 (1) 苦と楽いずれにも偏しない実践法である八正道 (はっしょうどう) のこと。 (2) 断滅論と常見論を離れた非断非常の理法のこと。 (3) 中観派でいう空の理法のこと。この理法は縁起 (えんぎ) であり,相対的に対立している諸概念のうちのいずれか一方に執着しないことを意味する。 (4) 法相宗では有と空に偏しないこと。 (5) 天台宗では諸法実相のこと。 (6) 華厳宗では法界 (ほっかい) のことをいう。

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普及版 字通 「中道」の読み・字形・画数・意味

【中道】ちゆうどう(だう)

中庸の道。途中。〔論語、雍也〕力足らざるは、中にして廢す。今、女(なんぢ)は畫(かぎ)れり。

字通「中」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「中道」の意味・わかりやすい解説

中道【ちゅうどう】

一般に極端な見解や実践を排して中庸に就くことを求める哲学的立場。〈苦楽中道〉を説く仏教に典型的。左右の政治勢力の中間に立つ政治的立場を指す場合もあり,〈中道政党〉などといわれる。

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世界大百科事典(旧版)内の中道の言及

【初期仏教】より

… 釈迦の時代のインドは,鉄器の利用により農産物が豊富になり富裕な商工業者が現れ,社会は爛熟し,旧来のベーダ,ウパニシャッドに基づくバラモン教に疑問をもつ自由思想家が多く輩出し,釈迦もその中の一人であった。その教義は,中道四諦(したい),八正道,縁起,無我の諸説にまとめうる。中道とは当時の伝統的苦行主義と享楽的自由主義のいずれにも偏らない生き方をいう。…

※「中道」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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