日本大百科全書(ニッポニカ) 「東北院職人歌合絵巻」の意味・わかりやすい解説
東北院職人歌合絵巻
とうほくいんしょくにんうたあわせえまき
鎌倉後期の絵巻。1巻。東京国立博物館蔵。1214年(建保2)の中秋十三夜に、東北院(法成寺の東北、上東門院の御所を寺とする)の念仏会(ねんぶつえ)に集まった職人や庶民が、貴族階級の遊びをまねて歌合を行ったという設定でつくられたもの。「月と恋」を題とし、経師(きょうじ)を判者に、医師(いし)・鍛冶(かじ)・刀磨(とぎ)・巫女(みこ)・海人(あま)(以上左)、陰陽師(おんみょうじ)・番匠(ばんしょう)・鋳物師(いもじ)・博打(ばくちうち)・賈人(あきひと)の多種の職人の詠んだ歌とその画像を描き、歌仙絵の形式につくられる。絵は洒脱(しゃだつ)な速筆に茶や朱の淡彩を施す略画風であるが、顔貌(がんぼう)は個性的で各職人の風貌をよくとらえている。京都の曼殊院(まんじゅいん)に伝わり、奥書に「萩原殿(はぎわらどの)(花園(はなぞの)院御所)御絵也(なり)」とあって、もと花園天皇の御物で、その崩御(1348)以前の制作と推定されている。
[村重 寧]