改訂新版 世界大百科事典 「東国正韻」の意味・わかりやすい解説
東国正韻 (とうごくせいいん)
朝鮮に現存する最初の韻書。李朝の申叔舟らが中心になり編集した活字本6巻。1447年(世宗29)成立,翌年刊行。4声・23母・91韻に分類している。朝鮮漢字音を整理すべく元の《古今韻会挙要》(1297)の諺解(ハングル訳)を図ったがうまくゆかず,これを土台に朝鮮字音独自の韻書を作ることになり成立。巻分けは中国のごとく四声の別をもってせず,同種の韻を一括し,その中を4声に分けている。字音は初期のハングル字体で示されている。中国字音にあっても朝鮮字音にはない舌頭と舌上,重唇と軽唇,歯頭と正歯等の区別はしないが,朝鮮字音にはない〈濁〉の範疇を設けるなど,はなはだ人為的な所も多く,朝鮮字音研究にはほとんど資料的価値はない。刊行後字音の標準として各種諺解書に付されたが,現実音との乖離もはなはだしく,成宗(在位1469-94)初期には用いられなくなる。子音を表す23母字は,《訓民正音》所載のハングル初声字の例字と合致し,ハングルの成立過程に本書が深く関わっていると考えられる。本書の成立には明の《洪武正韻》(1375)の影響も大きく,書名もこれに倣っている。以前は巻一,巻六の残巻しかなかったが,1972年に完本が発見され,その影印本がある。
執筆者:藤本 幸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報