ハングル(読み)はんぐる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハングル」の意味・わかりやすい解説

ハングル
はんぐる

朝鮮国字。文字制定当時は「訓民正音」という名でよばれたが、ほどなく漢字漢文に対して「諺文(オンモン)」という卑称でよばれるようになった。李(り)氏朝鮮王朝末期の開化期の民族意識の高揚とともに「国文」とよばれ、さらに国語学者周時経が「ハングル」(han=大いなる、gɯr=文字)と命名し、今日に至っている。現在は韓国(大韓民国)でハングル、北朝鮮でチョソンクルとよんでいる。この文字は、1443年李朝第4代国王世宗の命によってつくられ、1446年に『訓民正音』という書物の形で公布されたもので、当時の朝鮮語の音韻を分析し、抽出された音素に該当する文字を人工的につくりだした、世界の文字史上画期的なものである。この文字は子音字と母音字とからなる音素文字であると同時に、音節単位でまとめて表記するという音節文字的性質も備えている。また、そこに、音節を初声(頭子音)、中声(母音)、終声(末子音)の三つの構成要素に分けるという、当時の中国音韻学ではみられなかった音節構造の新しい把握がみられる。制定当時は子音字17、母音字11で合計28字であったが、その後の音韻変化などの結果、現在は子音字14、母音字10の計24字である。子音字の制字原理は、中国音韻学の子音分類(調音位置による分類といってよい)のそれぞれに、基本字を音声器官象形によって定め、そのなかの調音様式の違いによる変種は加画および並書(へいしょ)という方法でつくりだされる。母音字は、性理学的原理を記号化することによって三つの基本字を定め、それを対照的に組み合わせることによって他の母音字がつくられている。その組合せの対照性は、当時この言語に存在した母音調和を形成する2系列の母音の対立と一致する。文字創製後、この文字により仏典、経書その他多くの書物が刊行された。朝鮮民族はこの文字に強い誇りをもっており、韓国では世宗の訓民正音公布を記念し、10月9日を「ハングルの日」とし、祭日に定めている。

[梅田博之]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハングル」の意味・わかりやすい解説

ハングル
hangǔl

朝鮮語の表記に用いられる文字。音素を表わす要素の組合せでつくられる音節文字である。要素は,母音字 10,子音字 14ある。世宗 25 (1443) 年李朝第4代の王世宗のときに考案され,同 28年に「訓民正音」の名で公布された。当時は母音字 11,子音字 17あったがその後数が減って現在にいたっている。訓民正音がつくられたことによって,『竜飛御天歌』『釈譜詳節』『月印千江之曲』などが編纂刊行された。なお,諺文 (おんもん) とも呼ばれるが,漢字に対して卑下した意を含むので,現在朝鮮ではハングル (大いなる文字) の名称を用いる。元朝 (1271~1368) のパスパ文字にヒントを得てつくられたとの説がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報