日本大百科全書(ニッポニカ) 「子音」の意味・わかりやすい解説
子音
しいん
母音に対する単音の二大分類上の一つ。〔1〕音響的には非周期波である噪音(そうおん)、〔2〕聴覚的には相対的に「聴こえ」の小さいもの、〔3〕生理的には声道におけるいずれかの部位に閉鎖やせばめなどによる障害を伴うものなどと定義されるが、〔1〕では[m,n,…]などの楽音が子音に、また無声化母音(たとえばささやき声の母音など)の噪音が母音に分類される点、〔2〕では無声化母音よりも「聴こえ」の大きな[m,n,…]などが子音に分類されている点、およびその根底にある「聴こえ」に対する科学的根拠、〔3〕では声道に比較的障害を伴わない[w,j,h,…]などが子音に分類される点、などに問題が残る。
以上のように、子音と母音の境界は、場合によってはかならずしも明瞭(めいりょう)ではなくなるところから、音節の頂点を形成する能力を有するものを母音とし、しからざるものを子音とするいわば機能的な見方が導入された。しかし、こうすると、たとえば英語のcouple[k∧pł],prism[prIz],mutton[m∧t
]などの[ł,
,
]は子音でありながら、成節的であるということになる。
この点を克服するためにソシュールは、母音・子音という基準以外に、機能面から成節的であるものにsonante(自鳴音または自響音)、しからざるものにconsonante(共鳴音または他響音)という2種の術語を付与した。また、パイクは、従来の母音・子音という分類を、多かれ少なかれ音韻論的基準が持ち込まれているとして、これに対し、純粋に音声学的基準によるvocoid(母音類)とcontoid(子音類)の別をたてている。その結果、呼気が口腔(こうこう)の中央を通り、しかも摩擦や閉鎖のないものがvocoid、それ以外はすべてcontoidとなる。したがって無声化母音、半子音、[r,l,ł,ʎ,h,…]などの母音的子音は、いずれもvocoidと分類されることになった。一方、ホケットC. F. Hockettも同じ術語を用いるが、聴覚面から定義づけをしているため、たとえば[m,n,ł,…]などの鼻音をはじめとして、微弱な摩擦音である接近音をもvocoidとしている。
わが国では中国音韻学における声母(ほぼ子音に相当)と韻母(ほぼ母音に相当)の別に倣って、初期は母韻・子韻とし、ついで母音・父音を経て母音・子音と称するようになった。ただし、子音を「シオン」と読むと、歯音と同音衝突をおこすので、現在は「シイン」と読む。実用的見地からは、国際音声字母による調音点(横軸)と調音様式(縦軸)および声帯振動の有無による分類がもっとも便利である。
[城生佰太郎]
『服部四郎著『音声学』(1951・岩波書店)』▽『城生佰太郎著、金田一春彦監修『音声学』(1982・アポロン音楽工業社)』▽『M・シュービゲル著、小泉保訳『音声学入門』(1973・大修館書店)』▽『B・マルンベリ著、大橋保夫訳『音声学』(1959・白水社・文庫クセジュ)』