朝鮮で李朝時代に国字を制定したとき(1446),その文字に与えた名称。公布した条例も〈訓民正音〉という。〈民に訓(おし)える正しい音〉の意で,李朝第4代の王世宗によって公布された。略して〈正音〉といい,〈諺文(おんもん)〉とも呼んだ。朝鮮では古くから漢字を利用する表記(吏読(りとう)文字)がくふうされていたが,朝鮮語を明確に表現できず,十分な伝達機能を果たせないので,広く民衆にも使用できる文字として創制された。甲午改革(1894)で公用文に採用され〈国文〉と呼ばれたが,日本の統治時代に〈大〉を意味する古語ハンと文字を意味するクルを結びつけて〈ハングル〉という名称が創案され,今日も用いられている。公布した条例は,《李朝実録》世宗28年9月の条に,漢文で字母の発音・結合などを簡単に説明した本文と鄭麟趾の序があり,また別に,本文に朝鮮語訳を付した諺解本があって知られていたが,1940年慶尚北道の旧家から本文にその解説である〈解例〉を付した古本が発見され,全貌が明らかになった。〈解例〉は漢文で,制字解・初声解・中声解・終声解・合字解・用字例の5解1例から成り,字母の制定原理,文字の構成法などを詳しく解説している。
執筆者:大江 孝男
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…10世紀に高麗が建国して都を中部の開城に定め,中部方言を基礎とする共通語発展の基盤が固まり,14世紀末の朝鮮王朝(李朝)建国により都は現在のソウルの地に移ったが,この態勢は引きつがれた。新羅・高麗時代の言語は漢字の複雑な用字法(吏読(りとう)文字)で記録され,断片的なものが伝わるだけで全体像の把握は困難であるが,15世紀中葉に李朝第4代の国王世宗が〈訓民正音〉を公布し,今日ハングルと呼ばれる国字が制定されて朝鮮語を細部まで表現することが可能となり,仏典や中国の古典の翻訳が盛んに行われた。当時の朝鮮語には単母音7個があって,陽母音[a]と[o],陰母音[ə,ɯ,u]の対立による母音調和が行われ,語尾や助辞にも及んでおり,母音[i]は中性母音であった。…
…110章以降は後代の王への訓誡。ハングル(1446年訓民正音として制定)による最初の資料で,注は漢文で書かれて長く,高麗末から李朝初期の中国東北部や日本に関する記事もあり,文学・語学・歴史的にも重要である。朝鮮,満州の地名,人名のハングル表記もある。…
※「訓民正音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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