東洋道徳西洋芸術(読み)とうようどうとくせいようげいじゅつ

改訂新版 世界大百科事典 「東洋道徳西洋芸術」の意味・わかりやすい解説

東洋道徳・西洋芸術 (とうようどうとくせいようげいじゅつ)

幕末の思想家佐久間象山が唱えた観念道徳や社会政治体制の面では伝統を固持しつつ,科学技術の面では西洋のものを積極的に摂取しようとする思想をいう。類似の思想はすでに新井白石や江戸中期以後の蘭学者に認められるが,幕末の一時期には,とくに西洋軍事技術の導入と関連して,同様の思想が広く現れる。この思想動向は,西洋の文物思想を敵視した攘夷論当初の思想から,近代西洋文明を根底より導入して社会の全面的変革を実現しようとした明治啓蒙思想へいたる,過渡期産物と考えられるが,象山の〈東洋道徳・西洋芸術〉論はこの動向を代表するものである。清末の中体西用論や李氏朝朝鮮末期の東道西器説は,同じ歴史的意味をもつ。なお,啓蒙思想や自由民権論を否定して,天皇を頂点とする国家体制を確立しつつ,急激に富国強兵を推進した大日本帝国のあり方も,しばしば〈東洋道徳・西洋芸術〉的と評される。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の東洋道徳西洋芸術の言及

【佐久間象山】より

…幕末の思想家,〈東洋道徳・西洋芸術〉の観念の主唱者。名は啓,通称は修理,象山は号。…

※「東洋道徳西洋芸術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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