改訂新版 世界大百科事典 「林間放牧」の意味・わかりやすい解説
林間放牧 (りんかんほうぼく)
forest grazing
森林の下層植生を飼料として,林内に家畜を継続的に放牧しながら,林木の林業利用を行う作業形態。混牧林ともいう。広い意味では放牧を伴わず,飼料としての林内下草を定期的に刈りとる森林を含める場合もある。この作業法は世界の各地で行われてきたが,日本でも中国山地などで行われ,ササの多い森林ではササの飼料としての利用が試みられてきた。最近,畜産物の需要の増大,人工林化の進展,山地での草地造成の困難なことなどの条件のもとで,山地の集約的な利用形態の一つとして考えられている。しかし,畜産と林業経営を両立させることは全般に実行面で困難が多い。まず,飼料としての下層植生の葉量は上層木の茂り方で変化するが,よく茂った森林では乾重で1t/haをこえることは少ない。したがって放牧は軽度に行えるのみである。上層木が少ない場合や若い造林地ではもっと多くなるが,造林木が食害される危険が多い。さらに家畜の歩行によって造林木が折損,剝皮などの被害をうけるほか,表土がふみ固められて侵食されやすくなる。したがって,集約的な管理を行わないと,林業と畜産を両立させることは困難である。東南アジアなどの森林では乾季に林床に火が入り,下層植生はおもに草本で占められ,ウシ,スイギュウなどの放牧が行われていることが多い。この場合はしかし,森林に対して林業的配慮は,ほとんど行われていない。
執筆者:堤 利夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報