改訂新版 世界大百科事典 「林業経営」の意味・わかりやすい解説
林業経営 (りんぎょうけいえい)
日本の森林は経営形態別に国有林,公有林,私有林に分けられる(公有林と私有林を合わせて民有林という)。国有林は森林総面積の3割に達する。その大部分は国土の背骨ともいうべき脊梁山脈などの奥地に存在し,全国保安林区域の5割,自然公園区域の4割を占めて,国土保全,水源涵養(かんよう)などに重要な役割を担っている。国有林の9割以上を所管する林野庁が管理・経営にあたっている。
1947年,農林省所管の都府県の国有林,内務省所管の北海道の国有林,宮内省所管の御料林が一本化され,同時に,国有林野事業の健全な発展のため国有林野事業特別会計制度が発足した。第2次大戦後の復興期から高度成長期にかけて造林,木材生産とも進展したが,70年代後半以降,木材価格低迷,コスト上昇などにより収支が悪化している。90年代はその経営の立て直しに全力が注がれた。健全な財政状態は公益的機能からみても急務であることが認識された。
公有林は森林総面積の1割を占めるが,都道府県,市町村の基本財産造成を目的として経営され,明治末から直轄林にスギ,ヒノキ,マツなどの人工造林が進められてきた。現在では,このほかに水源涵養,レクリエーションなどの環境資源としての意義を経営方針の中に盛りこむ公有林がふえている。直轄経営のほかに地元住民に対する貸付けも多い。入会(いりあい)慣行の沿革を有する場所については,それら縁故者により経営されているものが多い。
私有林の所有者は林家(保有山林0.1ha以上の世帯),社寺,会社などで,林家数は250万(その3分の2は農家林家),林家以外の事業体は90万であるが,林家の9割以上は10ha未満の小規模経営である。農家が経営する小規模な森林は自家労働により植林,保育を行うものが多かったが,最近では自営による営林活動が減少し,森林組合の委託経営にゆだねる者が多くなった。大規模経営者では雇用労働を用いて計画的に経営する者も少なくない。このなかには林道を自力で敷設し,苗木を養成し,すぐれた資源内容をもつ例も多い。一方で,木材価格が低迷し,労賃などの費用が高いため,経営を放棄する者もみられ,間伐の遅れなどによる森林の荒廃が憂慮されている。林業経営の特性として生産期間が長期にわたるため,一貫した経営意志を持続することが最も重要である。また土壌,地勢,気候などの条件に適した経営を行う必要があり,木材生産と環境保全という二つの要求を満足させる経営のやり方が求められている。
→林業
執筆者:筒井 迪夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報