日本大百科全書(ニッポニカ) 「格納容器ベント」の意味・わかりやすい解説
格納容器ベント
かくのうようきべんと
原子炉格納容器内の圧力の異常上昇を抑制するため、格納容器に取り付けた排気設備。格納容器とは、原子炉圧力容器や冷却系統などが収められており、これらが破損しても放射性物質が外に漏れるのを防ぐための設備である。また、格納容器ベントは、格納容器の安全保護装置の一種で、格納容器圧力逃がし装置ともよばれる。格納容器圧力逃がし装置を用いて同容器内の圧力を下げるために排気する操作をベントventとよぶこともある。
大出力の発電用原子炉で冷却材喪失事故(LOCA:Loss of Coolant Accident)などが発生すると、圧力逃がし弁を通じて原子炉から高温の水蒸気、ジルコニウム‐水反応により発生した水素と酸素、おもに希ガスと揮発性の放射性核種などが格納容器内に放出される。この結果、格納容器内の圧力と温度が上昇する。このような場合、格納容器内には格納容器スプレー注水設備があり、格納容器の破損を避けるために冷却水を霧状に散布して格納容器内の圧力と温度を下げるようになっている。また日本では、福島第一原子力発電所事故後、水素と酸素が格納容器内で燃焼・爆発するのを避けるため、以前から設けられている可燃性ガス濃度制御設備に加え、新たに水素濃度制御設備などの設置が求められるなど、事故防止対策が強化された。しかし、万一、格納容器が除熱機能を喪失して同容器内の圧力が上昇した場合、ベント操作が行われる。沸騰水型軽水炉では、格納容器内の水蒸気などの蒸気混合物はベント管により同容器内の水中に導かれて冷却される。また、放射性ヨウ素などの放射性物質は水中で吸収される。これをフィルターベント(またはウェットベント)といい、放射性物質の環境放出を大幅に低減できる。福島第一原子力発電所の事故ではフィルターベントが行われたが、やむをえずに水を通さないドライベントも行われたため大量の放射性物質が放出されることとなった。なお、加圧水型軽水炉では、蒸気混合物がベント管を通じて薬液(水酸化ナトリウムなど)や金属フィルターを内蔵した格納容器ベント装置に導かれ、ベント操作が行われる。
[野口邦和 2016年2月17日]