桂川甫粲(読み)かつらがわほさん

精選版 日本国語大辞典 「桂川甫粲」の意味・読み・例文・類語

かつらがわ‐ほさん【桂川甫粲】

  1. 江戸後期の、蘭学者戯作(げさく)者、狂歌師。本姓森島。名は中良。江戸幕府の奥医師桂川家に生まれ、桂川甫周の弟。号は万象亭(まんぞうてい)、森羅亭万象、竹杖為軽など。平賀源内に師事し、洒落本滑稽本読本黄表紙を多数著わし狂歌師としても活躍。著「田舎芝居」「夫従以来記」など。宝暦六頃~文化七年(一七五六頃‐一八一〇

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朝日日本歴史人物事典 「桂川甫粲」の解説

桂川甫粲

没年:文化7.12.4(1810.12.29)
生年:宝暦6?(1756)
江戸中期の蘭学者,戯作者,蘭方医。本名は虞臣,通称は森島中良戯号森羅万象ほか,雅号には桂林など。桂川甫三の子,甫周の弟として江戸に生まれる。平賀源内の晩年の院本『荒御霊新田神徳』(1779年初演)など数本に執筆協力。戯作者としては天明7(1787)年刊行の洒落本『田舎芝居』でエポックを画した。黄表紙に『万象亭戯作濫觴』ほか狂歌狂文もあり,中国小説への関心も深く,翻案して読本『凩草紙』『月下清談』などを書いた。活動範囲は広範にわたり『桂林漫録』などの考証学的な著書も多数著し,交友も多彩で松平定信をはじめ大槻玄沢ほかの蘭学者と交流した。『紅毛雑話』(1787),『万国新話』(1789)などは鎖国時代の海外事情を知る上での啓蒙的役割を果たした。また『琉球談』(1790)は琉球学の先駆的な仕事であり,編著『海外異聞』は資料的にも価値が高い。蘭語学者としては『類聚紅毛語訳』『魯西亜寄語』のような辞書を編纂。中国の口語にも関心を寄せ白話辞書『俗語解』の改編を企てたが,最大の中日辞典の構想は実現せず死に至ったものとみられる。 こうして多方面にわたる豊かな才能を発揮し広い教養を示したが,器用貧乏な面も目立つ。戯作ではある程度までに達した力量も学問的な方面では啓蒙的な段階にとどまったからである。とりわけ多数の語学に関心を持ったが漢洋ともに深い段階に達していない。しかし研究のひとつの到達が辞書編纂を意味することを自覚している点をはじめ,西洋学の本質は捉えていて明治以前に現れた啓蒙的思想家としての側面を持っている。したがってイデオロギー面を強調しない柔らかな江戸中後期の思想を設定するとすれば,玄沢などと共に中核を担い得るキャラクターである。一時期加賀前田氏に仕えたとされ,寛政4(1792)年石井庄助と共に松平定信に禄仕,医員を勤めて同9年致仕。生没年には異説がある。<参考文献>今泉源吉『蘭学の家 桂川の人々』続編,岡田袈裟男『江戸の翻訳空間』,同「森島中良晩年探索」(『日本文学』1979年1月号),同「森島中良の見た異文化簡見」(『学燈』1992年2月号)

(岡田袈裟男)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「桂川甫粲」の解説

桂川甫粲 かつらがわ-ほさん

1754-1809* 江戸時代中期-後期の蘭学者,戯作(げさく)者。
宝暦4年生まれ。桂川甫筑(国訓(くにのり))の次男。桂川甫周(国瑞(くにあきら))の弟。蘭学にしたしみ,「蛮語箋」などをあらわす。戯作は平賀源内にまなび,洒落(しゃれ)本「真女意題(しんめいだい)」や黄表紙「従夫以来記(それからいらいき)」などをかいた。文化5年12月4日死去。55歳。江戸出身。本名は森島中良。字(あざな)は虞臣(やすおみ)。号は桂林,万象亭など。戯号は森羅万象など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「桂川甫粲」の意味・わかりやすい解説

桂川甫粲
かつらがわほさん

万象亭

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の桂川甫粲の言及

【森羅万象】より

…江戸後期の蘭学者,戯作者,狂歌師。本名森島(のちに中原)中良。通称は甫粲(ほさん)。別号は万象亭,天竺老人,2世風来山人。狂号は竹杖為軽(たけつえのすがる)。江戸の人。幕府医官桂川甫周の弟。平賀源内門下の蘭学者として《紅毛雑話》(1787),《万国新話》(1789),《類聚紅毛語訳》(1798)など多くの著述があるが,戯作者としては,黄表紙に知識人としての軽妙洒脱な作品が多く,《従夫(それから)以来記》《万象亭戯作濫觴(まんぞうていげさくのはじまり)》(以上1784),《竹斎老宝山吹色》(1794)などがあり,また洒落本では初作《真女意題(しんめいだい)》(1781)で,本能のまま行動する田舎侍の野暮さかげんを描いて笑わせ,《福神粋語録(すごろく)》(1786)では七福神の吉原遊びの滑稽を描いたが,《田舎芝居》(1787)は当時の洒落本の行き過ぎた写実の弊をついて,笑いの回復を主張し,のちの滑稽本への礎石をなした。…

【病院】より

…鎌倉時代に新興仏教の布教にともなって,病める貧窮者救助,看護などが熱心に取り組まれたこともある。ちなみに病院という言葉の起源ははるかに後世で,1787年(天明7)刊の森島中良(ちゆうりよう)(桂川甫粲(ほさん))編の《紅毛雑話》に〈同国(オランダ)中にガストホイスという府あり,明人病院と訳す。此府は甚だ広大に構えたり,何故なれば外国より集り来る所の使客並びに国中の病者は貴賤となく,ここに居らしむ……〉と紹介されたのが最初である。…

※「桂川甫粲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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