滑稽本(読み)こっけいぼん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

滑稽本
こっけいぼん

江戸時代後期の小説の一形態。戯作の一種。当時は「中本 (ちゅうぼん) 」と呼ばれ,滑稽本の名称は近代に入って与えられた。滑稽は近世全般を貫くものであるが,滑稽本の直接の源流は宝暦 (1751~64) 頃盛行した談義本に求められ,広義には談義本を含む。その後咄 (はし) の会の流行が,笑いの文学である滑稽本発生にあずかり,享和2 (1802) 年に十返舎一九作『東海道中膝栗毛』が登場,21年を費やして完成するという人気作となり,狭義の滑稽本流行の端緒となった。一九のあとに式亭三馬が『浮世風呂』『浮世床』を出し,詳細な写実により人気を得,さらに滝亭鯉丈が続き,明治初期の仮名垣魯文まで受継がれる。

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百科事典マイペディアの解説

滑稽本【こっけいぼん】

江戸後期の小説形態の一種。その書型から人情本とともに中本(ちゅうほん)と呼ばれた。江戸町人生活を誇張・諧謔(かいぎゃく)・機知をもって描く。源流は宝暦ごろ流行の談義本。文化・文政(1804年―1830年)ころ全盛。十返舎一九の《東海道中膝栗毛》を大流行の嚆矢(こうし)とし,明治初年まで行われる。式亭三馬の《浮世風呂》《浮世床》,滝亭鯉丈の《花暦八笑人》,明治初期の仮名垣魯文の《安愚楽鍋》など。
→関連項目江戸文学戯作滑稽和合人式亭三馬七偏人中本当世書生気質人情本梅亭金鵞文化文政時代

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世界大百科事典 第2版の解説

こっけいぼん【滑稽本】

江戸後期の小説形態の一種。〈滑稽本〉とは明治以後の文学史用語で,江戸時代は人情本とともにその書型から〈中本(ちゆうほん)〉と呼ばれた。十返舎一九作《東海道中膝栗毛》(初編1802)以後明治初年までの滑稽諧謔を旨とする作品を指すが,文学史上は,中本の源流とみなしうる宝暦・明和(1751‐72)のころの,笑いを内包する教訓的作品をもふくめている。 文学史上,滑稽本の最初は1752年(宝暦2)刊の静観房好阿(じようかんぼうこうあ)作《当世下手談義(いまようへただんぎ)》とされ,当時の町の生活,風俗を批判,教訓するものであるが,説経僧の語り口を採用しておのずと笑いをかもし出す。

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大辞林 第三版の解説

こっけいぼん【滑稽本】

江戸後期の小説の一。江戸を中心として流行した、滑稽を主とする小説。気質物かたぎもの・談義本だんぎぼんを継ぎ、文化・文政期(1804~1830)に最盛。町人の日常生活を題材とし、多く対話文でつづる。十返舎一九の「東海道中膝栗毛」、式亭三馬の「浮世風呂」「浮世床」が代表的作品。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

滑稽本
こっけいぼん

滑稽を目的とした戯作(げさく)類で、後期江戸小説の一分野。当時は、小本(こほん)(現在の文庫本に近い型)とよばれた書型の洒落本(しゃれぼん)に対して、中本(ちゅうほん)(現在の新書判に近い型)とよばれたが、明治中期以後、近世文学が学問の対象となってから、内容によって、この名称に統一された。源流は、1760年代(宝暦年間)に江戸で流行した談義本(だんぎぼん)類で、これらは、庶民教化を目的として、仏家の説法談義の調子で、平易、滑稽に教訓するという手法をとった。代表作の静観房好阿(じょうかんぼうこうあ)作『当世下手談義(いまようへただんぎ)』(1752、53)は、古人の霊や今人の逸話に託して、滑稽な表現で退廃爛熟(らんじゅく)した江戸文化を批判した教訓書である。そして伊藤単朴(たんぼく)作『教訓雑長持(ぞうながもち)』(1752)をはじめとする多くの類作が生まれたが、この系列のなかでは、風来山人(ふうらいさんじん)こと平賀源内の『根南志具佐(ねなしぐさ)』(1763)や『風流志道軒伝(しどうけんでん)』(1763)が、個人的憤懣(ふんまん)を基調とし、教訓よりも風刺的内容に発展して異彩を放った。しかし、当時の江戸では、洒落本、黄表紙、狂文など、滑稽をもっぱらとする作品が全盛を極めていたので、談義本は短命で終わらざるをえなかった。
 1790年(寛政2)松平定信(さだのぶ)の風紀粛正令によって、洒落本、黄表紙などの笑いの文学が壊滅したのち、十返舎一九(じっぺんしゃいっく)の『東海道中膝栗毛(ひざくりげ)』(初編、1802)を先頭にして、市井(しせい)の滑稽な様相を描く中本時代が始まり、庶民生活のおかしみを綿密に描写する式亭三馬(しきていさんば)の『浮世風呂(ぶろ)』(初編、1808)、『浮世床』(初編、1811)、茶番に明け暮れる庶民の遊興生活を描く滝亭鯉丈(りゅうていりじょう)の『花暦八笑人(はなごよみはっしょうじん)』(初編、1820)、『滑稽和合人(わごうじん)』(初編、1823)も刊行されて全盛期を迎え、梅亭金鵞(ばいていきんが)の『七偏人(しちへんじん)』(初編、1857)や仮名垣魯文(かながきろぶん)の『滑稽冨士詣(ふじもうで)』(初編、1860)などの模倣的作品も出た。明治に入り、魯文の『西洋道中膝栗毛』や『安愚楽鍋(あぐらなべ)』なども刊行されたが、1872年(明治5)、政府の「三条の教則」の宣伝文学『蛸(たこ)之入道魚説教』(魯文)が最後の中本となった。[興津 要]
『暉峻康隆・郡司正勝著『日本の文学5 江戸市民文学の開花』(1967・至文堂) ▽中野三敏著『戯作研究』(1981・中央公論社) ▽興津要著『転換期の文学――江戸から明治へ』(1960・早稲田大学出版部)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

こっけい‐ぼん【滑稽本】

〘名〙
① 滑稽な内容を持った本。滑稽小説などが書かれている書物。
※明暗(1916)〈夏目漱石〉一〇四「英語の滑稽本(コッケイボン)を出して津田に渡した」
② 江戸後期に盛行した小説の一つ。滑稽味を主眼とし、題材を日常一般の庶民生活に求めたもの。十返舎一九の「東海道中膝栗毛」や、式亭三馬の「浮世風呂」「浮世床」などが代表作。
[語誌](1)②について、文学史的には、宝暦(一七五一‐六四)ごろに江戸で発生した談義本を源流とする社会風刺や教訓を含んだ滑稽な作品、及び天明七年(一七八七)の洒落本「田舎芝居」を先駆として享和二年(一八〇二)の「東海道中膝栗毛」あたりから見られるようになるユーモアを主体とする滑稽味をもつ中本型挿画入りの作品類をいう。
(2)天明三年(一七八三)の「洒落本・三教色‐後座」に「青楼(せいろう)で小言をいふのはもろもろの滑稽本(しゃれほん)にも無ひてんだ」などとあるのを見ると、現在の文学史的な定義は別として、当時の意識としては、「洒落本」とはっきり区別していないようである。

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世界大百科事典内の滑稽本の言及

【中本】より

半紙本小本(こほん)との中間の寸法。近世後期の絵入り小説たる草双紙類は多くこの形態をとるが,そのなかでもとくに滑稽本,人情本の異称ともなる。【宗政 五十緒】。…

※「滑稽本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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