大乗仏典の一つ。10巻。詳しくは,《大仏頂如来密因修証了義諸菩薩万行首楞厳経》といい,唐の則天武后の時代(690-704)に,インド僧般刺蜜帝が南海の制司寺で口訳し,ちょうど流謫中の房融が筆録したとされる。早くより偽経の疑いがあるように,新しく興りつつあった禅や菩薩戒,密教の教義を,仏説の権威を借りて総合的に主張しようとしたものらしい。楞厳とは,クマーラジーバ(鳩摩羅什)訳の《首楞厳三昧経》と同じく,堅固な三昧の意である。ほぼ時を同じくし同じ意図をもって現れる中国撰述の《円覚経》とともに,後代もっとも流行し,各派の教義に影響して,多数の注釈書を生むとともに,自分の顔を見失う演若多達の譬(たと)えや,山河大地,雨滴声の語など,禅の公案として参究される。
執筆者:柳田 聖山
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