大学事典 「正本と版権」の解説
正本と版権
しょうほんとはんけん
exemplars and copyright
中世大学では,授業は権威ある著者のテキストに従っておこなわれた。中でも激しい論争の絶えなかったアリストテレスの著作には,内容の正確さが求められた。講義で使用されたテキスト写本やその一部である分冊は,大学があらかじめ厳選し公認した写本商などによって供給されていた。しかし,誤写を防いでテキストを統一化する必要があったため,大学団が写本自体の検閲をおこなって正本(exemplaria)を決定し,この正本のみの写本の売却や貸与が許可された。正本の決定は,大学団による教育内容の批准を意味する。現代の大学のカリキュラムが専門分野によって示されるのと違って,当時は特定の書物名によって示されていたため,その書物の写本の正当性を認定することは,教育内容の正当性を認定することに他ならなかった。また,大学による正本の決定と販売等の認可は,版権という概念の原初的形態を示しているとも考えられ,中世大学は印刷術出現以前の時代における一種の版権制度を確立していたとも言える。
著者: 児玉善仁
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報