日本大百科全書(ニッポニカ) 「民衆争訟・民衆訴訟」の意味・わかりやすい解説
民衆争訟・民衆訴訟
みんしゅうそうしょうみんしゅうそしょう
選挙人や住民たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらないで提起できる行政争訟・行政訴訟をいう。民衆争訟は行政庁に対する不服申立てを、民衆訴訟は裁判所への訴訟をさす。一般に行政争訟・行政訴訟は、国民の権利利益の救済を目的とする主観争訟・主観訴訟であるから、自己の法律上の利益が侵害された場合にだけ提起できるのが原則である。そして、これだけで憲法の裁判を受ける権利保障の要請は十分満たされるわけである。これに対し民衆争訟・民衆訴訟は、行政法規の適正な運用を確保するために置かれる客観争訟・客観訴訟であって、違法な行政作用に対する国民の権利利益の救済を目的とするものではないから、権利利益の侵害を要件とするものでもない。したがって、これは一般に認める必要はなく、法律が政策的にとくに必要と認めた場合に法律によりとくに認められた者に限り提起できる。
現行法下の例としては、民衆争訟として、選挙無効・当選無効の争訟(公職選挙法202条以下)や住民争訟がある。民衆訴訟としては、選挙無効・当選無効の訴訟や住民訴訟(地方自治法242条の2)のほか、最高裁判所裁判官国民審査無効の訴訟がある。
[阿部泰隆]