一般に,法秩序の維持ないし行政の適法性の確保を目的とする行政訴訟(これを客観訴訟という)であって,自己の具体的な権利・利益の侵害がなくても,地方公共団体の住民,選挙人などの資格で提起することのできる訴訟をさす。法秩序の維持を図るためには,必ずしも訴訟制度を利用しなければならない必然性はないから,どのような内容のものを裁判所の審査権に服する民衆訴訟とするかは,立法政策の問題である。
行政事件訴訟法は,民衆訴訟を行政事件訴訟の一つとし,民衆訴訟とは,〈国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で,選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう〉と定める(行政事件訴訟法5条)。民衆訴訟が客観訴訟の性格をもつことから,民衆訴訟は,法律に定める場合において,法律の定める者に限り,提起することができる(42条)。
民衆訴訟の具体例としては,まず,公職選挙法に基づく選挙に関する訴訟がある(公職選挙法203,204,207,208条等)。議員の定数配分の違法・不当を理由に選挙人が選挙の無効を争ったり,投票の計算方法の違法・不当を理由に落選者が当選無効の訴えを提起したりするのがその例である(選挙争訟)。もう一つの代表例としては,地方自治法の定める住民訴訟がある(地方自治法242条の2)。これはアメリカの納税者訴訟に範を求めたものであるが,普通地方公共団体の住民は,当該地方公共団体の長,職員らの違法,不当な公金の支出,その他財産管理の懈怠(けたい)についてその是正を求めて監査請求をすることができ(242条),この手続をへたうえで,裁判所に訴えを提起することができる。行政庁の行為に対して取消訴訟を提起するためには,訴えの利益などその訴訟要件を充足しなければならないのに対して,住民訴訟には地方公共団体の住民であること以外に特別の訴訟要件は存しないから,最近では,広く行政の違法行為一般について住民訴訟が提起される傾向もみられる。しかし,このような傾向に対する判例の見解はかなり厳格であって,住民訴訟の認容される例は必ずしも多くはない。
なお,同じく自己の具体的権利利益の侵害がなくても,行政の適法性の確保等のために,選挙人や住民等の資格で行政機関に対して提起する争訟(狭義の民衆争訟)と民衆訴訟とをあわせて(広義の)民衆争訟という。
執筆者:宮崎 良夫
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…これに加えて,現行の行政訴訟制度の下では,国民の権利保護を目的とする主観訴訟を中心にして行政訴訟が構成されている。したがって,次に述べる各種の行政訴訟のうち中核を占める抗告訴訟については原告適格の要件が定められるとともに(9,36,37条),客観的な法秩序の維持を目的とするところの客観訴訟たる機関訴訟および民衆訴訟はあくまでも例外的なものとされている(42条)。
[行政事件訴訟の種類]
行政事件訴訟法は,行政訴訟の種類として,次の四つの訴訟を定めている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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