要請
ようせい
postulate
公準と訳されることもある。ある事柄を成立させるためには必要であるとして、証明なしにたてられる事柄、または命題。カントは、最高善の実現のためには必要であるとして、理論的には証明されない三つの事柄――自由の存在、霊魂の不滅、神の存在――を要請し、これを「実践理性の要請」Postulatと名づけた。またユークリッドは、彼の幾何学を建設するとき、今日われわれがいうところのユークリッド幾何学の公理を要請としてたて、幾何学に限定されないより一般的な公理――たとえば、同一のものに等しいものは相互に相等しい――を、公理として区別した。したがってこの意味では、ユークリッド幾何学の公理は、要請というよりは「公準」といったほうがよい。カルナップは、ことばの意味を規定するものとしてたてられた命題を「意味公準」meaning postulateといった。「独身者は結婚していない」という命題を「独身者」および「結婚していない」ということばが満足すべき命題と考えるならば、それはそれらのことばに関する意味公準の一つである。そしてその意味では、ユークリッド幾何学の要請(公準)は、幾何学に固有なことば――点、直線、平面など――に関する意味公準であるといえる。
[黒崎 宏]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
よう‐せい エウ‥【要請】
〘名〙
① (━する) 必要な事柄を、その実現のために願い出て求めること。
※真空地帯(1952)〈野間宏〉三「引きつづき経理室にいてくれることをのぞんでいて、中隊にも要請するといったのだから」
② (━する) 必要とすること。要求。
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生と虚空「道徳的要請からそれを律する立ち場でもない」
※批評の敗北(1931)〈杉山平助〉「ここに初めて専門の職業的批評家の出現が要請され」
③ 哲学で、それ自体の証明はできないが、学問的認識を成立させるためになければならないと要求されている根本的な命題。公準。
④ ユークリッドがその幾何学を展開する際、出発点として採用した一四個の命題のうち、より幾何学的な性格をもつ五個のこと。「任意の点より任意の点へ直線を引くことができる」の類。公準。→
普通公理
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デジタル大辞泉
「要請」の意味・読み・例文・類語
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普及版 字通
「要請」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典内の要請の言及
【公準】より
…ユークリッドが幾何学の体系を組み立てるときに導入したものであり,理論体系構成の基礎として,まったく自明な命題として証明なしで採用した命題のうち,幾何学特有のものを公準,または要請といい,もっと一般的なものを公理と呼んだ。しかし,現代では,公準と公理の区別をしないで公理と呼んでいる。…
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