公準と訳されることもある。ある事柄を成立させるためには必要であるとして、証明なしにたてられる事柄、または命題。カントは、最高善の実現のためには必要であるとして、理論的には証明されない三つの事柄――自由の存在、霊魂の不滅、神の存在――を要請し、これを「実践理性の要請」Postulatと名づけた。またユークリッドは、彼の幾何学を建設するとき、今日われわれがいうところのユークリッド幾何学の公理を要請としてたて、幾何学に限定されないより一般的な公理――たとえば、同一のものに等しいものは相互に相等しい――を、公理として区別した。したがってこの意味では、ユークリッド幾何学の公理は、要請というよりは「公準」といったほうがよい。カルナップは、ことばの意味を規定するものとしてたてられた命題を「意味公準」meaning postulateといった。「独身者は結婚していない」という命題を「独身者」および「結婚していない」ということばが満足すべき命題と考えるならば、それはそれらのことばに関する意味公準の一つである。そしてその意味では、ユークリッド幾何学の要請(公準)は、幾何学に固有なことば――点、直線、平面など――に関する意味公準であるといえる。
[黒崎 宏]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…ユークリッドが幾何学の体系を組み立てるときに導入したものであり,理論体系構成の基礎として,まったく自明な命題として証明なしで採用した命題のうち,幾何学特有のものを公準,または要請といい,もっと一般的なものを公理と呼んだ。しかし,現代では,公準と公理の区別をしないで公理と呼んでいる。…
※「要請」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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