住民訴訟(読み)ジュウミンソショウ

デジタル大辞泉 「住民訴訟」の意味・読み・例文・類語

じゅうみん‐そしょう〔ヂユウミン‐〕【住民訴訟】

地方公共団体違法・不当な公金の支出などに対して、住民がその是正を求めて起こす訴訟住民監査請求による措置に不服があるときに提起できる。

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精選版 日本国語大辞典 「住民訴訟」の意味・読み・例文・類語

じゅうみん‐そしょうヂュウミン‥【住民訴訟】

  1. 〘 名詞 〙 地方公共団体の長や職員などが、違法あるいは不当な公金の支出、財産取得・管理・処分などをした場合、住民が住民監査請求を提出した後、監査結果になお不服があるときに提起する訴訟。アメリカの市民訴訟・納税者訴訟にならったもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「住民訴訟」の意味・わかりやすい解説

住民訴訟 (じゅうみんそしょう)

地方公共団体の住民が,住民自治を基礎として,自治行政に対する民主的統制のための制度たる住民監査請求(地方自治法242条)を経た後,監査結果等になお不服がある場合に,裁判的統制を求めて提起する訴訟(242条の2)。住民監査請求は,地方公共団体の長・委員会等の機関,または職員によって,違法もしくは不当な公金の支出,財産の取得・管理もしくは処分,契約の締結もしくは履行もしくは債務その他の義務の負担がなされた場合,または,違法もしくは不当に公金の賦課もしくは徴収もしくは財産の管理を怠る事実(以下〈怠る事実〉という)がある場合,監査委員に対し,監査を求め,それらの行為を防止・是正し,もしくは怠っている事実を改め,これらの行為や事実によってその地方公共団体のこうむった損害を補塡するために必要な措置をとることを請求する制度である。

 住民監査請求は,その地方公共団体内部での自主的解決の制度であるが,(1)監査委員の監査の結果または勧告に不服があるとき,(2)勧告を受けた機関または職員の措置に不服があるとき,(3)監査委員が監査請求のあった日から60日以内に監査または勧告を行わないとき,および,(4)勧告を受けた機関または職員が勧告に明示された期間内に必要な措置を講じないとき,請求人たる住民は,住民訴訟を裁判所に提起することができる。住民訴訟は,住民監査請求とともに,アメリカの各州でひろく認められている納税者訴訟taxpayers' suitをモデルとして,1948年にとり入れられた制度であるが,64年の地方自治法の大改正の際,大幅に手直しされ,現在に至っている。なお,住民訴訟は,住民監査請求を経ることを要件としており,住民監査請求は,事務監査請求(地方自治法12条2項,75条)と異なり,すべての住民がこれをすることができ,住民ひとりでもすることができる。

 住民訴訟は,このように,住民たる資格さえあれば,だれでも提起できる特殊な訴訟であり,〈法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で……自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する〉民衆訴訟(行政事件訴訟法5条)の一種とされている。訴訟の対象となる事項は,財務会計上の行為であり,(1)執行機関または職員に対する当該行為の全部または一部の差止めの請求,(2)行政処分たる当該行為の取消しまたは無効確認の請求,(3)当該執行機関または職員に対する当該〈怠る事実〉の違法確認の請求,(4)当該地方公共団体に代位して行う当該職員に対する損害賠償の請求もしくは不当利得返還の請求,または,当該行為または〈怠る事実〉にかかわる相手方に対する法律関係不存在確認の請求,損害賠償の請求,不当利得返還の請求,原状回復の請求もしくは妨害排除の請求,の4種類の請求を内容としている(地方自治法242条の2-1項)。

 このように,住民訴訟は,住民監査請求とともに地方公共団体の財務運営上の適法性・妥当性の確保を,住民のイニシアティブで図ることを目的とした制度であり,地方公共団体の行政一般に対する統制権を認めたものではない。そのような限界があるものの,住民訴訟や住民監査請求は,間接的であれ地方自治行政の民主的統制の手段としての意義は大きく,住民自治を活性化する制度の一つということができる。
監査請求 →住民
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「住民訴訟」の意味・わかりやすい解説

住民訴訟
じゅうみんそしょう

地方公共団体(都道府県、市町村、都の特別区、組合、財産区、地方開発事業団)の財務会計上の違法について、住民が地方公共団体の財産を保全するために単に住民としての資格に基づいて裁判による救済を求めることができる訴訟(地方自治法242条の2)。戦後、アメリカのTaxpayers' suitに倣い、納税者訴訟の名のもとに導入された制度であるが、納税者であることはこの訴訟提起の要件ではないので、1963年(昭和38)の地方自治法の改正に際し正式名称を住民訴訟と称することになった。

 住民ならだれでも訴えを提起できるといういわゆる民衆訴訟の一種であるが、かわりに、地方公共団体の違法のうち、財務会計上の違法しか争えないという制約がある。住民が勝訴した場合も地方公共団体の財産が保全されるだけで、原告個人は一文の利益も得ることはできないまったくの公益訴訟である。この制度は、住民が直接地方公共団体の政治に参加して、地方公共の利益を図ること、とくに自治体の財政上の腐敗の防止を目ざす点に意義がある。

 この訴訟を提起するためには、まず住民監査請求(地方自治法242条)をする必要がある。これは、地方公共団体の長・委員会・委員または職員について、違法・不当な公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合を含む)と認めるとき、または違法・不当に公金の賦課・徴収、財産の管理を怠る事実があると認めるとき、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求めるものである。住民がこの監査請求の結果に不服のあるとき提起する訴えが住民訴訟である。その具体的な請求の種類としては、差止請求、行政処分の取消し、無効確認請求、怠る事実の違法確認請求、損害賠償請求などがある。よく用いられるのは損害賠償訴訟である。たとえば、市の財産を不当に安く売却したり、不当に高く民有地を購入したり、職員に法定外給与(闇(やみ)ボーナス等)を払ったりした場合に利用される。住民はいわゆる手弁当でこの訴訟を進行するが、勝訴した場合は弁護士報酬の支払いを地方公共団体に求めることができる。住民訴訟はもともとそれほど活用されていなかったが、最近は頻繁に利用され、地方公共団体の乱脈財政の防止に寄与している。それとともに、争える財務会計事項と争えない非財務的事項の区別、職員の賠償責任の範囲などについて解釈上不明確な問題点のあることがクローズアップされてきている。

[阿部泰隆]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「住民訴訟」の意味・わかりやすい解説

住民訴訟
じゅうみんそしょう

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世界大百科事典(旧版)内の住民訴訟の言及

【行政訴訟】より

…(3)民衆訴訟 国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で,選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう(行政事件訴訟法5条)。これには,たとえば公職選挙法203,204,207条にいう選挙や当選の効力に関する訴訟,あるいは地方自治法242条の2にいう住民訴訟が挙げられる。(4)機関訴訟 国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟(行政事件訴訟法6条)。…

※「住民訴訟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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