権利侵害などの法的な争いの解決を図る民事訴訟の一類型として行政訴訟があり、国や自治体の行政処分で生じた被害の救済を目的としている。手続きは行政事件訴訟法で規定。処分の取り消しや内容の無効確認、本来取るべき措置を実施しない場合に訴える「不作為の違法確認」、行政側に特定の行為をさせる「義務付け訴訟」などがある。
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行政上の法律関係をめぐる争い(行政事件という)について,裁判所が利害関係人によって提起された訴えを正規の手続に従って審理し,判決によって争いの解決を図る手続の総称。日本の現行法制上は行政事件訴訟と呼ばれている。行政訴訟の観念はもともと行政裁判制度との密接な関連のもとに形成されてきた。行政事件に対する裁判制度のあり方は比較法的にみても一様ではなく,英米法系の国々では通常の司法裁判所が行政事件についても裁判権を行使してきたのに対し,ドイツ,フランスなどのヨーロッパ大陸諸国では,種々の歴史的事情を背景にしながら,行政権に対する司法権の干渉を排除するために,司法裁判所と系統を異にする行政裁判所が設けられ,これに行政事件の裁判権が与えられてきた。このような行政裁判制度の創設は,行政権と司法権を分離するという政策上の要請に基づくものであったが,理論的には,公法と私法の峻別,さらには私益に対する公益の優先性の承認によって正当化され根拠づけられた。そして,このような行政裁判制度の目的は,第一次的には行政の適法性の確保にあるとされ,行政権の違法な行使に対する国民の権利・利益の保護は第二次的なものとされた。
第2次大戦前の日本においても,ドイツやオーストリアの制度を参考にして行政裁判制度が設けられた(旧憲法61条)。しかし,日本の行政裁判制度は,制度上,一審制にして終審制であり,かつ出訴事項(行政訴訟事項)についてきわめて限定的な列記主義の原則が採用されるなど,権利救済制度としてきわめて不十分であったばかりか,運用面においても,行政権の立場を重視しすぎて,当時の公法学者から官権偏重の弊ありと批判されるありさまであった。
戦後の日本では,新憲法の制定とともに行政裁判制度が廃止され,行政事件を含むいっさいの法律上の争訟が最高裁判所を頂点とする司法裁判所の裁判権に服するものとされることになった(日本国憲法76条,裁判所法3条)。しかし,その後占領下での国務大臣の公職追放事件を契機にして行政事件に対する訴訟手続のあり方が論議されるに至った。その結果,行政事件は,国や地方公共団体等の行政主体と国民との間の法的紛争であることから,これを私人相互間の争いである一般の民事事件と同様の手続で処理することが必ずしも適切ではないと考えられたために,行政事件については,1948年に行政事件訴訟特例法が制定され,ついで62年には現行法である行政事件訴訟法が制定された。
現行の行政訴訟制度は,戦前の行政裁判制度と比較すると,民事事件・刑事事件についてと同様の三審制が採られ,出訴事項についても一般概括主義が採用されるなど大幅な改善をみたが,他面,民事保全法による仮処分の排除(行政事件訴訟法44条),執行不停止原則(25条1項。執行停止),内閣総理大臣の異議の制度(27条),事情判決の制度(31条)など,国民に対する行政権の優越性を保障する制度が採用されている。これに加えて,現行の行政訴訟制度の下では,国民の権利保護を目的とする主観訴訟を中心にして行政訴訟が構成されている。したがって,次に述べる各種の行政訴訟のうち中核を占める抗告訴訟については原告適格の要件が定められるとともに(9,36,37条),客観的な法秩序の維持を目的とするところの客観訴訟たる機関訴訟および民衆訴訟はあくまでも例外的なものとされている(42条)。
行政事件訴訟法は,行政訴訟の種類として,次の四つの訴訟を定めている。(1)抗告訴訟 公権力の行使に関する不服の訴訟。抗告訴訟はさらに,処分の取消しの訴え,裁決の取消しの訴え,無効等確認の訴え,不作為の違法確認の訴えに分けて法定されている(3条)。これ以外に,行政庁に一定の作為もしくは不作為を義務づける訴訟のごとき,いわゆる無名抗告訴訟が許されるか否かは学説,判例上争いのあるところであるが,最近では,三権分立論の機械的な適用による無名抗告訴訟否認論よりも,一定の要件のもとでその許容性を肯定しようとする見解が有力である。(2)当事者訴訟 行政庁の公権力の行使の適否を争うのではなく,権利主体相互間の権利義務関係の存否を争う訴訟。現行法上は,当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分または裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの,および公法上の法律関係に関する訴訟をいう(4条)。前者は,いわゆる形式的当事者訴訟といわれるもので,たとえば土地収用法133条による損失補償に関する訴えがそれにあたり,後者は,実質的に民事訴訟と異ならないが,公法上の法律関係に関するものという点で,行政事件訴訟法の規定する対象とされており,これには,たとえば公務員の俸給請求の訴えなどが挙げられる。(3)民衆訴訟 国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で,選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう(行政事件訴訟法5条)。これには,たとえば公職選挙法203,204,207条にいう選挙や当選の効力に関する訴訟,あるいは地方自治法242条の2にいう住民訴訟が挙げられる。(4)機関訴訟 国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟(行政事件訴訟法6条)。たとえば,地方自治法151条の2にいう職務執行命令訴訟がこれにあたる。
民衆訴訟も機関訴訟も,個人の具体的な法律上の利益の保護を目的としない客観訴訟とされることから,法律に定める場合において,法律に定める者に限り,提起することができるとされている(行政事件訴訟法42条)。もっとも,民衆訴訟は国民ないし地域住民としての法的地位ないし参政権を基礎とするかぎりにおいて,主観訴訟との連続性を考慮する余地を有している。
→行政裁判 →行政審判 →行政争訟 →行政不服審査
執筆者:宮崎 良夫
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行政庁の権限の行使の適法・違法をめぐって生ずる国民と行政庁との間の紛争を正式の裁判手続に従って裁判すること。広義では、これを裁判する機関が行政裁判所か司法裁判所かを問わない。司法裁判所一元制度がとられている英米法系諸国や現在の日本においても、前記の意味での行政訴訟は存在する。現行の行政事件訴訟法はこの意味での行政訴訟の手続を定めたものである。狭義では、前記の行政上の紛争につき通常裁判所(司法裁判所)とは系統を異にする行政権内部の裁判所(行政裁判所)が裁判することをいう。もともとドイツ、フランスなど大陸法系諸国では歴史的な事情から司法裁判所と行政裁判所という二元的な裁判制度を採用しているので、この意味での行政訴訟が存在することになる。第二次世界大戦前の日本では大陸法系の制度を採用していたが、戦後は英米法系諸国に倣い司法裁判所一元制度を採用したので、狭義の行政訴訟は存在していない。
[阿部泰隆]
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…訴訟の実際でも,訴えの利益があるかどうか微妙な事件では,ある程度請求の中身についての弁論や証拠調べが行われてはじめて訴えの利益の存否についても見通しが立つのがふつうであるから,訴えの利益と請求の当否(本案)についての審理は並行してなされることが多い。【井上 治典】
[行政訴訟]
行政訴訟においても,原告適格を有する者の範囲を画するために訴えの利益の有無が問題になる。旧来の行政訴訟においては,営業許可の取消処分や租税賦課処分などについて,処分の相手方が直接に原告となってその違法性を争うものが大部分を占めてきた。…
…裁判と同義に用いられることが多い(裁判)。
[訴訟の種類とそれぞれの特色]
現在は,訴訟といわれるものには,民事訴訟,刑事訴訟,行政訴訟の3種類がある。 民事訴訟は,私人間の法的紛争を取り扱う。…
※「行政訴訟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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