改訂新版 世界大百科事典 「泊瀬」の意味・わかりやすい解説
泊瀬 (はつせ)
奈良県桜井市東部の初瀬川渓谷の総称。初瀬,長谷とも書く。現在は〈はせ〉と発音する。大和と東国とを結ぶ伊勢街道の要衝にあってはやくから開け,雄略天皇の泊瀬朝倉宮,武烈天皇の泊瀬列城(なみき)宮などが営まれたとされる。《和名抄》には長谷郷が見え城上(しきのかみ)郡に属していた。渓谷入口の三輪山に近い慈恩寺・脇本地域などは古代のシキ(磯城)地域に含まれ,狭義のヤマトの範囲の東端に位置していたと考えられる。渓谷中部には有名な長谷(はせ)寺があり,泊瀬地域の集落は長谷寺の門前町,伊勢街道の宿場町として発達した。
執筆者:舟尾 好正
歌枕
地名は,大和川(やまとがわ)を川舟でさかのぼって泊(は)てる瀬の意か。山川の清浄な地域で,〈こもりく(隠国,隠口)の泊瀬〉と呼ばれる特殊な霊地であったらしく,《万葉集》にはこの地での聖婚の歌や送葬の挽歌が多い。〈こもりくの泊瀬小国に妻しあれば石はふめどもなほぞ来にける〉(巻十三)。初瀬川,初瀬山なども歌に詠まれた。
執筆者:渡瀬 昌忠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報