化学辞典 第2版 「減速スペクトル」の解説
減速スペクトル
ゲンソクスペクトル
degradation spectrum
高エネルギー放射線を物質に照射すると,次々にイオン化が起こり二次電子が発生する.二次電子のうち,照射される物質のイオン化エネルギーよりも大きなエネルギーをもつ電子は,さらにイオン化を繰り返す.なだれのように発生するこれらの電子を,衝突される物質の側から見たときのエネルギースペクトルを減速スペクトルという.原子炉内で発生する中性子についても同じように減速スペクトルを考えることができる.図(a)は,水に60Coγ線を照射したときに発生する二次電子の減速スペクトルの計算例である.y1 がγ線によるコンプトン電子のつくるエネルギースペクトル(これを1代目とする),y2,y3,y4,…はそれぞれ2代目,3代目,4代目の二次電子によって生じた二次電子のエネルギースペクトルである.これらの和が水のなかに生じる二次電子の減速スペクトルy(T)になる.二次電子の減速スペクトルがわかれば,物質内で起こる各種のイオン化や励起がどの程度のエネルギーの二次電子によって生じたかを計算することができる.図(b)は,ヘリウムガスに100 keV の電子線を照射したときに生じるイオン化と励起(一重項励起と三重項励起)が,どのようなエネルギーの二次電子によって生じたかを示した図である.このような図をはじめて示したR.L. Platzmanにちなんで,プラッツマンダイアグラムという.Q(T)は,Tというエネルギーの二次電子によるイオン,あるいは励起状態の生成断面積である.横軸とそれぞれの曲線が囲む面積が,イオン化および励起の発生量に比例する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報