独立に存在する原子、分子、あるいはイオンがもっとも安定な電子エネルギー状態(基底状態)にあるとき、それらのなかでもっとも高いエネルギー準位にある電子1個を原子などから無限に遠い距離まで引き離す(イオン化する)のに要するエネルギー。そのエネルギーをI、原子などをM、電子をe-とするとき、
M+I→M++e-
となる。原子を1価陽イオンにするのに要するエネルギーを第1イオン化エネルギー、一般に(n-1)価のイオンをn価の陽イオンにするのに要するエネルギーを第nイオン化エネルギーという。イオン化エネルギーを実験的に求めるには、原子などに加速電子または光子を衝突させ、イオンが生じたときの加速電子のエネルギー(加速電圧)または光子のエネルギー(波長)を測定する。また、発光スペクトルの波長からも求められる。
原子のイオン化エネルギーは最外殻電子配置と有効核電荷によって支配されるので、原子番号とイオン化エネルギーとの間には周期的関係がある。第1イオン化エネルギーをみると、1価陽イオンになりやすいアルカリ金属などでは小さな値になり、陽イオンになりにくい希ガス(貴ガス)やハロゲンでは大きな値になっている。イオン化エネルギーの値を電子ボルト単位で表した量はイオン化ポテンシャルあるいはイオン化電位、イオン化電圧とよばれ、またcal/mol単位で表した量はイオン化熱とよばれることがある。
[岩本振武]
最も安定な状態(基底状態)にある気体の原子または原子団から電子を1個無限遠にまでひき離して,陽イオンを生成させるのに必要な最小エネルギーをいう。したがってイオン化エネルギーの小さな原子ほど陽イオンになりやすい。これを電子ボルトeV単位で表す場合には,イオン化ポテンシャルionization potentialあるいはイオン化電圧ionization voltageと呼ぶ。原子のイオン化エネルギーの大きさは,最外殻の電子配置と有効核荷電とによって支配され,周期表の左側に位置する元素の原子ほど小さく,右側に位置する元素の原子ほど大きくなる(アルカリ金属原子は陽イオンになりやすく,ハロゲンや希ガスの原子は陽イオンになりにくい)。また同族の元素では,原子番号の大きな原子ほどイオン化エネルギーは小さくなる。水溶液のような溶液中におけるイオン化についてもイオン化エネルギーの語が用いられることがあるが,この場合には,気相中の値より溶媒和のエネルギー(水和熱)分だけ小さな値となる。
なお,無限に離れた中性原子と電子とが結合して陰イオンを生成するときに放出されるエネルギーは電子親和力と呼ばれ,原子の陰イオンになりやすさを示す尺度となる。
執筆者:橋谷 卓成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
物質をイオン化するのに必要なエネルギー.孤立系での値は物質固有の定数でイオン化電位という.凝縮相ではほかの原子,分子との相互作用のため,気相中の値より一般に低く,水溶液ではイオン化電位より生成イオンの水和熱だけ低いと考えられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…いま,この逆の過程Na(原子)+Cl(原子)―→NaCl(分子)でどのくらいのエネルギーが放出されるかを,結合がNa+イオンとCl-イオンのクーロン引力によってできているとして計算してみる。Na(原子)の原子核から受ける静電引力に逆らって電子を1個取り去ってNa+イオンをつくるのに必要なエネルギー(イオン化エネルギー)は,実験によって496kJ/molである。Cl(原子)は電子親和力が強く,この電子を受け取ってCl-イオンになったほうが安定で,このとき348kJ/molのエネルギーを放出する。…
※「イオン化エネルギー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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