日本大百科全書(ニッポニカ) 「灰色新月環」の意味・わかりやすい解説
灰色新月環
はいいろしんげつかん
イモリやカエルなど両生類の卵において、受精後に現れる色素の淡い三日月形の部分をいう。卵表層に黒い色素をもつ両生類の卵において、この部分は灰色にみえる。しかし、種によってはそれほど明瞭(めいりょう)に認められない。受精時に精子の侵入に伴って生じた卵表層の細胞質の回転運動により、精子侵入の反対側、赤道よりやや下側に卵をほぼ半周する三日月形の色素の薄い部分、すなわち灰色新月環が出現する。この部分がどのような物質的特性をもつか不明であるが、多くの実験発生学的研究により、この部分なしでは正常な形態形成が行われないこと、またこの部分から胚(はい)の形態形成の際の形成体である原口背唇部が生ずることなどが明らかにされた。卵割期にどのような働きをするか不明であるが、受精と同時に胚の形態に関する三つの軸、すなわち頭尾軸、背腹軸、および内外軸の原点を示すものとして大きな意義をもつ。
[竹内重夫]