カエル(読み)かえる(英語表記)frog

翻訳|frog

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カエル」の意味・わかりやすい解説

カエル
かえる / 蛙
frog
toad

両生綱無尾目に属する動物の総称。カワズともいう。両生類のなかでもっとも繁栄しているグループである。南極大陸と北極圏を除く全世界に約3000種が生息し、体長は1~20センチメートルほどである。

[倉本 満]

形態

カエルの体は頭胴部と四肢に大別される。頭と胴は直接つながり、頸(くび)にあたる部分がない。頭部には、口、外鼻孔、目、鼓膜がある。口は大きく、比較的大形の餌(えさ)動物を捕食するのに適する。歯は小さく、餌をかみ切ったりそしゃくすることはできない。多くの種では、舌の基部は下あごの前端に付着し、舌の先端は口の奥に向いている。外鼻孔は吻端(ふんたん)近くにあり、口腔(こうこう)内の内鼻孔に通じる。目はよく発達し、頭の上側部に突出する。目の下縁には透明な瞬膜があり、潜水時に目を覆う。鼓膜は目の後方に位置し、一般によく発達する。外耳はない。多くの種では雄ののどの下または頬(ほお)に鳴嚢(めいのう)があり、肺と鳴嚢の間に空気を往復させ、声帯を振動させて鳴き声を発する。胴には、胸に1対の前肢、後端に1対の後肢があるほかは、とくに目だつ外部構造はない。胴の末端に総排出孔が開く。一部の種は背面に卵や胚(はい)を収める保育嚢をもつ。有尾類と異なり、成体は尾を欠く。前肢は後肢に比べて短く、陸上で体を支持するのに用いられる。原則として前肢の指は4本で水かきはない。後肢は陸上での跳躍、水中での遊泳に用いられ、大きく発達する。指は5本で、指間に水かきがある。地中に潜る種の多くは後ろ向きに後肢で土を掘るため、かかと付近に角質の隆起が発達し、シャベルの役を果たす。樹上性や渓流性のカエルには、前後肢とも指端に吸盤がある。

 体表は皮膚に覆われ、鱗(うろこ)や体毛はない。皮膚表面は分泌腺(ぶんぴつせん)からの分泌物によって湿っている。多くの種は多少とも有毒な物質を分泌し、とくにドクガエルやヒキガエルの分泌物は毒性が高い。ヒキガエルは鼓膜上縁に分泌腺の集中した耳腺をもつ。消化系は、食道、胃、腸および肝臓、膵臓(すいぞう)などの消化腺よりなる。呼吸は肺のほか皮膚や口腔上皮を通して行われる。広いリンパ腔が各部の皮膚と筋肉の間に発達する。排出は腎臓(じんぞう)によって行われ、膀胱(ぼうこう)は総排出腔に連なる。雄は腎臓腹面に1対の精巣をもつ。雌の卵巣は大きく、輸卵管は胸の上部から体腔背面に沿って曲がりくねりながら下降し、総排出腔に開く。筋肉系、神経系ともよく発達し、活発に行動できる。

 カエルの幼生はオタマジャクシとよばれ、成体と異なる形態、生態を示す。頭胴部は丸く、長い尾を備えて水中を遊泳する。目は成体に比べて小さく、眼瞼(がんけん)はない。孵化(ふか)直後に体の左右に突出していた外鰓(がいさい)は、やがて皮膚のひだに覆われてみえなくなり、内鰓と交替する。オタマジャクシは絶えず水を飲み、口から取り込んだ水はえらの表面を流れ、一般に左体側部に開く呼吸孔から体外へ出る。口には餌を削り取るための黒い角質の嘴(くちばし)と唇歯がある。尾の上下にある尾びれは、止水にすむ幼生では広く、流水にすむ幼生では狭い。後肢は尾の基部から伸長するが、前肢は鰓室内で発達するため外部からはみえず、変態期に鰓室の壁を破って体外に現れる。オタマジャクシからカエルへの変態時には尾が消失するほか、口器、呼吸器、皮膚などの構造にも大きな変化が生じる。

[倉本 満]

生態

カエルの生息場所は水中、水辺、地上、地中、樹上など、きわめて変化に富む。皮膚が自由に水を透過させるため、一般に湿った場所を選んで生息する。砂漠などの乾燥地に適応した種もいるが、これらは乾期には地中に潜み、雨期に出現して、一斉に繁殖する。長い乾期を地中で過ごす種は、水分消失を防ぐため体の周囲に薄膜を形成し、その中で休眠状態となる。カエルは水分を皮膚から取り込み、直接水を飲むことはない。湿った土やぬれた葉に静止しているだけで、腹面から水が摂取される。また、カエルは変温動物であり、その活動は周囲の温度によって大きな影響を受ける。とくに低温は代謝速度を低下させるだけでなく、餌動物の減少をもたらすため、温帯や亜寒帯のものは冬になると冬眠する。日当りのよい水辺の土に潜って冬眠するが、山地では凍結しない源流付近の水中で越冬する種も多い。冬眠中は呼吸量、心臓拍動数が減少し、生命維持に必要なエネルギーは主として夏と秋に蓄えられた脂肪によってまかなわれる。

 普通のカエルは夕方から夜間にかけて活動し、日中は地面のくぼみ、石の下、草むらの中、葉の間に隠れている。餌は小形の動物で、各種の昆虫やミミズなどを捕食する。大形のものはカニや巻き貝を食べ、小鳥、ネズミ、ヘビを食べることもある。小動物をとらえるときは舌を反転して口外へ伸ばし、その先端に粘着させて口の中に取り込む。また逆に、カエルはヘビや肉食性の哺乳類(ほにゅうるい)、鳥類などに捕食される。身を守る仕組みとしては、隠れ場に潜む習性、陸上や水中での逃避行動、生息場所に対応した保護色などの消極的な手段が主体であるが、一部の種は有毒物質を分泌する。これらの積極的防御手段をもつ種は色彩が鮮やかであり、日中に活動する。繁殖期になると、雄が水辺に集まって盛んに鳴く。雌は鳴き声に誘引されて雄に接近するが、同じ場所で数種のカエルが同時に繁殖する場合でも、鳴き声の特徴や鳴く位置などが種によって異なるため、雌は同種の雄を誤りなく識別することができる。産卵に先だって雄は前肢で雌を抱くが、これを抱接という。普通のカエルの雄は背後から雌の胸の部位に抱接するが、原始的なカエルでは雌の腰に抱接する。交尾器をもたないため大多数のカエルは体外受精で、雌の産んだ卵に雄が精子をかける。卵は輸卵管壁から分泌されたゼリー層に包まれている。産卵後はゼリー層が吸水して膨らみ、卵の間隔を広げるとともに胚を保護する役を果たす。胚はやがて孵化し、水中で幼生生活を始める。幼生は雑食性である。

 カエル類には以上のような典型的な繁殖様式のほか、きわめて多彩な繁殖様式がみられる。水際に穴を掘ったり泥でクレーター状の巣を築いてその中に産卵する種、ゼリーをかき混ぜた白い泡状の卵塊を陸上や樹上に産卵する種、樹洞やアナナス類の葉間にたまった少量の水に産卵する種は、水中幼生期をもつ。しかし、熱帯地方には湿った地面に産卵し、水中幼生期を経ないで変態して孵化するカエルが多い。これを直接発生とよぶ。サンバガエルAlytes obstetricans、コモリガエルPipa pipa、ダーウィンガエルRhinoderma darwiniiなどのように、卵や胚を親が体につけて持ち運ぶ種も多い。少数ながら体内受精の種もある。北アメリカのオガエルAscaphus trueiでは、雄の排出孔が短い尾のような形で突出し、これによって精子を雌の体内に入れ、受精卵は水中に産み出される。アフリカのコモチヒキガエル属Nectophrynoidesやプエルト・リコのレプトダクチルス科に属するジャスパーガエルEleutherodactylus jasperiでは、体内受精した卵は輸卵管内で発生し、変態してから生まれる。

[倉本 満]

分類

カエル類の分類は脊椎骨(せきついこつ)や胸帯の構造、幼生の形態、繁殖様式などに基づいている。成体の外部形態は生活様式によって大きな変異を示すので、分類の基準としては不適当である。したがって、外形から科を区別することはほとんど不可能に近い。

[倉本 満]

飼育

水槽に水を入れ、砂で上陸できる場所をつくる。普通のカエルでは陸を広くし、水は水槽の一端に浅く入っている程度とする。石や植木鉢のかけらで、水辺に隠れ場を用意する。草を植えるのもよいが、容器を洗う際にはかえって不便である。体の大きさにあまり差がなければ、異種のカエルを同じ容器内で飼育してもよい。カエルや餌動物が逃げないように網またはガラスで蓋(ふた)をする。カエルは生きた小動物しか食べないので、長期飼育はかなり困難であったが、最近では、休眠性がないため一年中増殖できるフタボシコオロギや、鳥の餌でもあるミールワームが比較的容易に入手できるようになり、この点はかなり便利になった。アマガエルのようにガラス壁によじ登る小形種は、イエバエやショウジョウバエを好んで食べる。水中性のツメガエルXenopus laevisは、魚と同様に多量の水を入れた容器で飼育する。餌はミンチやレバーの小片でよい。また、幼生は柔らかく煮たホウレンソウを餌として簡単に飼育できる。最近では幼生用の餌料(じりょう)も市販されている。なるべく水面の広い容器を用い、水が濁れば、くみおき水で換水する。

[倉本 満]

利用

カエルは生物学、医学の実験研究用動物として広く利用される。脊椎動物(とくに四足類)としてはもっとも入手が容易であること、扱いやすい大きさであること、多数の卵が簡単に得られることなどが、実験動物として優れた点である。ツメガエルは室内で継代が可能で、年間を通じて実験や観察に使用できる。

 世界各国でカエルは食用とされ、ウシガエルRana catesbeiana、トラフガエルRana tigrinaなどのアカガエル科の大形種がおもな対象となる。カエルの肉はタンパク質が主成分で、鳥肉や魚肉に似て柔らかく栄養価も劣らない。おもに大腿部(だいたいぶ)をから揚げやスープにして賞味される。また、小動物を捕食する習性を利用して、農作物の害虫駆除に用いられる。オオヒキガエルBufo marinusは捕食量が多く乾燥にも耐えるため、熱帯地域に多く導入されている。

[倉本 満]

民俗

長野県諏訪大社(すわたいしゃ)の上社では、古来「蛙狩神事(かわずがりしんじ)」といって元日の朝にヒキガエルの生贄(いけにえ)を供える。御手洗川(みたらしがわ)の氷を割り、下にいるヒキガエルを5、6匹小さな弓矢で射て、串(くし)に刺して捧(ささ)げる。同県上田市塩田の生島足島神社(いくしまたるしまじんじゃ)でも、正月3日に同種の神事が行われる。ヒキガエルはカエルのなかでもとくに神聖視され、屋敷にいるのは家の主といわれる。『古事記』にみえる谷蟆(たにぐく)(ヒキガエルの古名)をはじめ、上代の文学でも、大地の主の神の使者の性格をみせており、旧暦10月の稲の刈り上げの行事が、蛙節供などとよばれてカエルと結び付いているのも、同じ信仰の表れであろう。この日、つくったぼた餅(もち)をカエルが背負い、山に帰る田の神のお伴をするとか、鍬(くわ)に当たって死んだカエルの供養の日であるとかいうが、ここでは農耕を守る神の使者となっている。

 雨乞い(あまごい)の神事の芸能にカエルが登場したり、カエルの形をした蛙石をいじると雨が降るとされるなど、カエルは雨と関係が深い。カエルを殺すと雨が降るという伝えは、ヨーロッパの一部や北米先住民にもあり、部族によってはヒキガエルを水の神として殺すことを慎み、雨乞いの儀式にも用いた。インドでも、カエルは水や雨の神の使者と信じられてたいせつにされる。ジャイナ教徒が行う蛙祭り(10月7日)には、国中のカエルが湖沼に集まって鳴くといい、ヒンドゥー教徒はカエルに供物を捧げて雨乞いをする。

 日本には江戸時代から、カエルを殺してオオバコの葉でくるみ、土の中に埋めて歌いかけるというカエルの葬式の遊びがある。殺したカエルをオオバコの葉で包むと生き返るともいい、それを踏まえて詠んだ歌は、すでに『蜻蛉日記(かげろうにっき)』にみえている。

 ヒキガエルはしばしば化け物にもなっている。東京都八王子市には、洞窟(どうくつ)の中で成長したヒキガエルが外に出られなくなり、前を通る生き物をなんでも吸い込んで食べていたという話があり、朝鮮や中国では毒気を吐くヒキガエルの怪談が発達している。また、初夏のころにヒキガエルが集まって押し合う蛙合戦(蛙軍(かえるいくさ))も、あちこちにあったらしい。『続日本紀(しょくにほんぎ)』延暦(えんりゃく)3年(784)5月7日の条には、ヒキガエル2万匹が四天王寺(大阪市元町)に集まったとあり、同じ事件を記した『水鏡』は、これを長岡京への遷都の前兆としているが、中国でもカエルの大移動はしばしばみられ、1901年の数万匹のヒキガエルの移動は、清朝(しんちょう)崩壊の前兆であったと伝えている。

[小島瓔

『中村健児・上野俊一著『原色日本両生爬虫類図鑑』(1963・保育社)』『フレーザー著、山極隆訳『両生類の生活』(1976・共立出版)』『千石正一編『原色両生・爬虫類』(1979・家の光協会)』


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