日本大百科全書(ニッポニカ) 「イモリ」の意味・わかりやすい解説
イモリ
いもり / 蠑螈
井守
newt
広義には両生綱有尾目イモリ亜目、狭義にはそのうちのイモリ科に属する種の総称であるが、日本ではアカハライモリの通称としても用いられる。
分類・形態
イモリ科はヨーロッパ、北アフリカ、アジア、北アメリカ、および中央アメリカの一部に分布し、15属40種を含む。代表的な種としてはヨーロッパのクシイモリTriturus cristatus、オビイモリT. vulgaris、サラマンドラSalamandra salamandra、アジアのアカハライモリCynops pyrrhogaster、イボイモリTylototriton andersoni、アメリカのブチイモリNotophthalmus viridescens、カリフォルニアイモリTaricha torosaなどがある。体形は有尾類の典型的なもので、全長4~20センチメートル、頭は比較的小さく、細長い胴と尾がある。四肢は短小で、前肢に4本、後肢に5本の指がある。皮膚は一般に粗く、体表からフグ毒であるテトロドトキシンを分泌する種がある。
イモリ亜目には、イモリ科のほかにホライモリ科とアンヒューマ科が含まれるが、イモリ科に比して種数は少ない。上あご、下あごおよび口蓋(こうがい)に歯があり、肺があるなどの共通点があるが、ホライモリ科とアンヒューマ科では水中生活に適応して形態が特殊化している。
アカハライモリは本州、四国、九州および隣接の島々にすみ、全長10センチメートル内外で、背面は黒褐色、腹面は赤橙(せきとう)色の地に黒斑(こくはん)がある。雄は雌より小形で、繁殖期には総排出孔の周囲が大きく膨らむ。また、雄の尾の側面は紫青色を呈する。琉球諸島(りゅうきゅうしょとう)には亜種シリケンイモリC. p. ensicaudaが分布する。
[倉本 満]
生態
イモリ科にはほぼ完全に地上性の種から水中性の種まであり、生息場所は多様である。わが国のイモリは低地から山地にかけ、主として溝、水田、沼などの止水にみられるほか、流れの緩い河川にも生息する。昆虫類、甲殻類、クモ類、ミミズ類などを食べる。
イモリ亜目はすべて体内受精であるが、交尾がないため、雌雄は複雑な求愛行動によって精包(精子塊)の授受を行う。雄には精包を形成するための分泌腺(せん)があり、そこから水底または地上に落とした精包を雌が総排出孔から取り込む様式が多いが、雄が雌に体を巻き付けて精包を移す種もある。精包は雌の貯精嚢(のう)に蓄えられ、卵は産卵直前に受精する。受精卵が輸卵管内で発育し、幼生となって産み出される種もあり、アルプスサラマンドラS. atraのように変態個体を産む種もある。
アカハライモリの産卵期は春から初夏までで、水底で雄は雌を認めると、その進路を阻むようにして雌の鼻先で尾を細かく振動させる。雌が反応すると雄は歩き始め、雌がそのあとに続く。やがて雄は水底に精包を放出し、雌がその上を通過するとき総排出孔からそれを取り込む。卵は1個ずつ水草の葉に包むようにして産み付けられる。孵化(ふか)した幼生は水中で生活し、変態して上陸するが、成熟するとふたたび水中生活を始める。
[倉本 満]