無動無言症(読み)むどうむごんしょう(その他表記)akinetic mutism

改訂新版 世界大百科事典 「無動無言症」の意味・わかりやすい解説

無動無言症 (むどうむごんしょう)
akinetic mutism

1941年にケアンズH.Cairnsらによって記載された症候群の一つ。覚醒昏睡(可知覚性昏睡)coma vigilの一型で,睡眠・覚醒のリズムがあり,覚醒時には目をあけ,意識があるようにみえるが,自発的な運動や自発語がない。食物嚥下逃避反射はあり,目で人やものを追うことはある。この症候群からはっきりした意識混濁に発展したり,意識混濁からこの状態を経て回復することがあり,また,入眠しやすさと健忘,屎尿失禁のあることから,軽い意識混濁がある特殊な状態とみられる。脳の器質的障害によって起き,脳神経症状や片麻痺,錐体路症状や錐体外路症状などのいろいろな神経症状を伴う。ケアンズらの症例は第三脳室類上皮囊腫で視床下部-視床の圧迫症状と考えられたが,豊倉康夫らはその後の報告例を,(1)中脳・橋の出血軟化などによる視床,視床下部,脳幹網様賦活系の部分的な障害,(2)両側前帯状回,脳梁,ときには前頭葉の出血や軟化による障害,(3)一酸化炭素中毒,白質ジストロフィーなどの大脳皮質と白質の広範な障害,によるものに分けた(1967)。これらのうち(3)は,ドイツ語圏や日本では失外套症候群apallisches Syndrom(クレッチマーE.Kretschmer,1940)と呼ばれ,意識混濁がないことからこの症候群から区別されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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