無知の知(読み)ムチノチ(その他表記)Bewusstsein des Nichtwissens

デジタル大辞泉 「無知の知」の意味・読み・例文・類語

無知むち

自ら無知自覚することが真の認識に至る道であるとする、ソクラテスの真理探究への基本になる考え方

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無知の知」の意味・わかりやすい解説

無知の知
むちのち
Bewusstsein des Nichtwissens

ソクラテス哲学を特徴づける有名な言葉。哲学者 (愛知者) という意味でのギリシア語 philosophosは,ピタゴラス,ソクラテス的意味では,神だけが知者 sophosであるとの立場から,知者でないがゆえに知 sophiaを愛求する有限的存在としての人間の本質規定であった。したがって philosophiaは,いわゆる賢者や知恵の本性が神と比すれば無にも等しいものであることを明らかに自覚することに始る。本来的な知のイデーのもとにおける自己の無知の自覚が無知の知にほかならず,ソクラテスの優越は,だれよりも深くこのことにおいてすぐれていたことによる (『ソクラテスの弁明』) 。しかも無知の知は,消極的側面にとどまらず,かえって迷妄をはらし真実の知への扉を開くのであり,かかる自覚を自己の本質的契機としてこそ,「能うかぎり神に似ること」が philosophosの目標として措定されることになる。それゆえにまた教育者としてのソクラテスは,人々にこの自覚を与え本来的な知のイデーヘ視座を転換するように努めるのであり,そのことはプラトン対話篇に印象的に示されている。

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世界大百科事典(旧版)内の無知の知の言及

【神秘主義】より

…いっさいの形容と規定を否定することこそ神への道である。神を知る知は,〈無知の知〉でなければならない。このいわゆる〈否定道via negativa〉または〈否定神学apophatikē theologia〉は以後ながく神秘神学の方法を規定した。…

【ソクラテス】より

…こうした自覚への機縁となったのは,〈ソクラテス以上の知者はいない〉というデルフォイの神託であった。彼はその意味を解明するために,世に知者と呼ばれている人たちを吟味して歩いた結果,彼らの方は〈何も知らないのに知っていると思い込んでいる〉のに対して,彼のみがみずからの無知を自覚している,すなわち〈無知の知〉という一点において相違していることに気づいた。そしてさらに,神託の真意はソクラテスに名を借りてすべての人間の無知を悟らせることにあると考えるに至った。…

※「無知の知」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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