日本大百科全書(ニッポニカ) 「狐女房」の意味・わかりやすい解説
狐女房
きつねにょうぼう
昔話。女の姿をした動物との結婚を主題にした婚姻譚(たん)の一つ。男に助けられた狐が、女の姿になってきて、男の妻になる。やがて男の子が生まれる。その後、正体を夫に知られた妻は、自分の所在を詠み込んだ歌を残して立ち去る。子供はのちにりっぱな人になる。類話は古く『日本霊異記(りょういき)』にもみえ、美濃(みの)国(岐阜県)の狐直(きつねのあたい)という家筋の由来譚になっている。異類女房譚のなかでも、「蛇女房」や「天人女房」と同じく、妻は離別しながらも、子孫が残っているところに特色がある。室町時代の『狐草子』や『御伽(おとぎ)草子』の「木幡(こわた)狐」のような、女に化けた狐との単純な婚姻譚も古くから世間話の形で数多く知られているが、形式の整った類話はおおむね陰陽道(おんみょうどう)の大家、安倍晴明(あべのせいめい)の物語になり、「聴耳(ききみみ)」へと続いている。これは陰陽師と狐との霊的結び付きを説明する陰陽師の宗教文芸で、「狐女房」と「聴耳」が複合した晴明の物語は、『簠簋抄(ほきしょう)』(1647)にあり、説経節や浄瑠璃(じょうるり)の「信田妻(しのだづま)」としても有名である。旅芸人の語り物や盆踊り唄(うた)の口説(くどき)にもなっており、昔話も、そうした語り物が伝存したものらしい。
朝鮮や中国でも狐は神秘的な動物とされ、女に化けた狐との婚姻譚は多いが、朝鮮には特定の人物を狐の子とする伝えもある。各地のエスキモーや東シベリアのコリヤーク人にも類話がある。
[小島瓔]