日本大百科全書(ニッポニカ) 「世間話」の意味・わかりやすい解説
世間話
せけんばなし
説話の形態の一種。日常的な談話のなかで話題に供する噂(うわさ)話のたぐいをさす。直接の体験や事実を語ろうとするのではなく、「――であるということだ」「――だそうな」といった伝聞の形をとるのが普通である。マス・コミュニケーションのような情報伝達の媒体が発達する以前は、人と人との接触が情報を得る方法の基本形態で、日本の伝統的な社会では、人が集まると、なにかと世間の話題に花を咲かせることが多かった。世間話は、いわば、そうした時代のニュース・ストーリーである。その場で消えてゆくニュース性の強い話題もあるが、興味をひく話題は、むしろ文芸として類型化したものが多く、そこに説話としての世間話の意義がある。昔話が事実譚(たん)のように語られることも多い。「笑い話」も、固有名詞を伴って、世間話化しやすい。おろか村やおどけ者の話はその例である。怪異譚も「化け物話」や「動物報恩譚」などが固有名詞と結び付いてよく話題にのぼる。「継子(ままこ)話」も、その素材の現実性から世間話になり、よその土地で事実あったことのように伝えられることもある。
近代的都市的社会でも、世間話は生命力を維持している。電信線に荷物をぶら下げて送ろうとした「電信線にブーツ」や、狐(きつね)や狸(たぬき)が汽車に化けて線路を走った「幻の汽車」なども、日本の各地で語られているだけではなく、アメリカ合衆国やヨーロッパなどにもある。自動車に乗せた女の人が幽霊であったという「幽霊タクシー」は、1935年(昭和10)前後から、アメリカ合衆国、日本、それにその関連地域で、繰り返し新しいできごととして話題になってきた。近代機械文明の花形も、笑い話や怪異譚に取り込まれ、世間話の素材になっている。現代では、1979年ごろ広まった「口さけ女」のように、噂話がマス・コミュニケーションとも結び付いて、世間話として大流行するような現象もおこっている。情報化社会は、世間話の伝播(でんぱ)力を増大しているともいえる。
[小島瓔]