これは《グリム童話》第5番の題名であるが,これと同じタイプの昔話は,中欧,東欧,ロシア,フィンランド,そしてアイルランドなどに分布している。母山羊の留守に狼が来て,母を装って戸を開けさせようとする。子山羊たちは声と足がちがうというが,チョークの粉で声をなおし,白い粉で足を白くした狼にだまされて戸を開ける。狼は末っ子を除いた六匹を食べる。帰宅した母山羊は末っ子からわけを聞き,草原で眠っている狼の腹を切開し,子山羊を救出して腹の中に石を入れておく。目ざめた狼は井戸で水を飲もうとして,腹の石のために中へ落ちて死ぬ。一度は狼に食べられた子山羊が生きて現れるのは,〈赤ずきん〉と同様,シャマニズムの通過儀礼にみられる〈死と再生〉のかすかななごりと考えられる。親の留守に子どもが悪者によって殺され,戻ってきた親によって救出されるという骨組みにしてみれば,日本の昔話〈瓜子姫〉も同じ構造をもつことがわかる。
執筆者:小澤 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報