オオカミ(その他表記)wolf

翻訳|wolf

改訂新版 世界大百科事典 「オオカミ」の意味・わかりやすい解説

オオカミ (狼)
wolf

イヌのハスキー,シェパードなどの品種に似た大型のイヌ科イヌ属に属する数種の哺乳類の総称。タイリクオオカミニホンオオカミ,アメリカアカオオカミの3種がある。

タイリクオオカミCanis lupusは,ハイイロオオカミ(英名gray wolf),シンリンオオカミ(英名timber wolf)とも呼ばれ,かつてはヨーロッパ,アジア,北アメリカのほとんど全域とメキシコに広く分布したが,今では西ヨーロッパとアメリカ合衆国の大部分からほとんど姿を消し,イギリス,ポーランド,スイス,北海道などでは絶滅した。体長82~160cm,尾長30~50cm,肩高55~97cm,体重15~82kg,雌は雄よりやや小さい。コヨーテジャッカルに似るががんじょうで吻(ふん)が太く,鼻鏡の幅はそれらでは25mm以下なのに30mm以上あり,犬歯が太く短く,前・後足とも中央の2指が長い。そのため足跡は縦長の楕円形で,コヨーテ,ジャッカル,イヌのように円形でない。シェパード,ハスキーなどとは足跡のほか,耳介が小さく,目がつり上がり,四肢が長く,尾が太いなどの点で区別できる。体の上面は灰黄色,または灰褐色で,首と背筋は毛が他の部分よりはるかに長くかつ黒毛を混ずるので,虫食い模様のマントを着けたように見える。体下面と四肢の内側,ほおの下半は白く,前肢前面の手根部にはふつう暗色の縦斑がある。冬毛は夏毛より毛が長く厚く淡色。しばしば全身が白色,または黒色の個体がある。頭骨は前頭部がヘルメット状に盛り上がって,眼窩(がんか)が低く,吻端部が幅広く,頰弓(きようきゆう)が高い。歯は42本,上の切歯列は前方に突出し,第3切歯と裂肉歯(上の第4前臼歯(ぜんきゆうし)と下の第1臼歯)がイヌより大きい。

 一般に寒冷な地域のものは温暖な地域のものに比し平均して体が大きく,毛が長く密で淡色のため,多くの亜種が区別されている。最小の亜種はアラビア半島南部のアラビアオオカミC.l.arabsで,肩高55~70cm,短毛で体側の毛は2cmに達しない。アラビア北部,イラク,インド北部のインドオオカミC.l.pallipesはやや大きく肩高60~72cm,体側の毛は3cm前後に達する。天山,チベットヒマラヤから中国,朝鮮半島,ウスリーまで分布するチベットオオカミチョウセンオオカミヌクテイC.l.chancoは,中型で肩高62~76cm,体側の毛は4~6cm,肩の毛は12cmに達する。毛色はふつう灰黄褐色であるが黒色の個体もまれでない。朝鮮名のヌクテイは本亜種のほかドールにも用いられる。ヨーロッパからシベリア南部を通りアムールまでの森林地帯にすむヨーロッパオオカミC.l.lupusは,さらに大きく肩高67~83cm,体側毛は5cm前後で前亜種と異ならないが,毛色は灰褐色で黄色を帯びない。1900年ころ絶滅した北海道のエゾオオカミC.l.hattaiは前亜種と同大であるが,毛色や吻の長いところはチベットオオカミに似ている。サハリンに現存するのはこの亜種らしい。アラスカのアラスカオオカミC.l.pambasileusは最大の亜種の一つで肩高75~90cm,ときに95cmに達する。

 日本固有のニホンオオカミC.hodophilaxは体長82~110cm,肩高40~55cm,タイリクオオカミの小型亜種に似るため,しばしばその亜種ともされるが,四肢,吻,耳介が短く,目のまわりに淡色斑を欠き,頭骨では前頭部の盛り上がりが弱いなど多くの点で異なる。かつては本州,四国,九州に分布し,シカを主食としていたが,主食の減少,ウマなどの家畜の被害を防ぐための駆除,狂犬病の流行などが原因となって江戸時代中期以降激減し,1905年奈良県鷲家口で捕獲された雄を最後に絶滅したとされている。

 かつて北アメリカの南部に広く分布していたが,今ではテキサス南東部とルイジアナの一部に残るだけのアメリカアカオオカミC.rufusは,体長1~1.2m,肩高70cm前後,タイリクオオカミより四肢が長く耳介が大きい。毛色は一般に赤みが強いが,灰色のものや全身黒色のものもある。絶滅のおそれが強く,アメリカでは人工増殖を試みている。なおアジア産のドールも,古くからアカオオカミと呼ばれるが,これはここに述べるオオカミ類とはまったく別のもので,リカオンに近縁である。

タイリクオオカミはふつう5~8頭,十数頭以下の群れで生活し,平地から山岳地帯までの森林,草原,ツンドラ,砂漠など,あらゆる環境にすむが密林には入らない。食物はヘラジカアカシカトナカイなどのシカ類,バイソン,ジャコウウシ,野生のヒツジ,ヤギなどがおもで,ときにウマ,ウシ,ヒツジなどの家畜を襲う。しかし,人を襲うことは狂犬病にかかったもの以外にはほとんどない。夏はネズミ,鳥,トカゲ,カエル,果実なども食べる。

 大型の獲物は群れで手分けして襲う。嗅覚(きゆうかく)が鋭く,2.4km先の獲物をにおいで探知できる。襲うのは獲物の中の老獣や幼獣,病気の個体などで,ねらいを定めた個体だけを時速55~70kmで追跡し,それを5kmも続けることがある。群れの行動圏の広さは獲物の多寡により130km2から1万3000km2まで変化し,その中をおもに夜,1日数kmから72kmの割りで巡回し,境に尿と糞でマーキングする。この中で未知のオオカミに出会うと激しく攻撃し,殺すこともまれでない。群れにはきびしい順位があり,下位のものは上位者に,尾を下げて振るなどの服従の意思表示をし,これによって攻撃を避けることができる。順位決定のための戦いも,一方が服従の意思表示をすることによって中止され,ひどい傷を受けることはない。リーダーはふつう年長の雄。約8種類の声があり,遠ぼえは主として仲間を招集するときの連絡に用いられる。1雄1雌で,この配偶関係は終生変わらないことがある。交尾期は南部では1~2月,極北地方では4月上旬に始まる。妊娠期間は約63日,1腹3~10子,ふつう5~7子を雌が掘った穴に生む。子は体重約500gで暗褐色,5~15日で眼が開き,5週で離乳するが,母親は2ヵ月間子のそばにいる。この間群れの仲間は食物を吐き出して雌や子に与える。また母親が狩りに参加するときは,若い雌が残って子の世話をする。子は2歳で性的に成熟するが,3歳にならないと繁殖しないことが多い。老獣は群れから追い出され1頭で生活する。16歳まで生きられるが,10歳以上のものはまれ。
執筆者:

オオカミは西ヨーロッパでは17世紀から19世紀にかけてほとんど絶滅したが,古代から全ヨーロッパに知られた野獣である。英語のwolfなど,インド・ヨーロッパ語系の言語では〈奪う,引っぱる,ひきずる〉の語源を有し,家畜の恐るべき敵として〈オオカミ〉はタブー語と扱われ,〈森のイヌ〉〈夜のイヌ〉,また婉曲に〈灰色のもの〉とか〈森の住民〉と呼ばれる。東ヨーロッパの伝説では,オオカミはデーモンや悪魔によってつくられたという。初めヒツジの群れの番をいいつかり,その報酬として毎日1頭ずつヒツジをもらう約束であったが,この約束が破られたためヒツジを襲って奪うようになった。オオカミは家畜ばかりでなく人間も襲ったので,人はウマを犠牲にして逃げたり,火をたいたり,鐘を鳴らして防いだ。また牧人はイヌをけしかけ,堀を掘って防ぎ,わなや網でとらえた。神話の中では終末論的イメージをもって現れる。例えば北欧神話では,世界の終末に怪狼(かいろう)フェンリルFenrirが主神オーディンをのみ込むし,太陽や月を追いかけ,ついにこれをのみ込むスコルScǫllとハティHatiというオオカミが出てくる。これは日食と月食を意味していると解される。オーディンにはゲリGeriとフレキFrekiという2頭のオオカミが仕えているが,これは〈軍神〉であると同時に〈死の神〉とされるオーディンに,戦場で死体や腐肉をあさるオオカミのイメージが結びついたのであろう。民間信仰にもオオカミは,デーモン的存在として現れることが多い。魔女や悪魔,吸血鬼,洗礼されずに死んだ子などはオオカミの姿をとって現れると信じられる。オオカミとの出会いで吉凶を占う場合,多くは戦争,飢饉,病気,死の到来を意味するが,ジプシーは幸福な結婚生活,フランス人はよい客の来訪を告げるという。オオカミの皮の一部を鶏小屋の前に埋めるとキツネよけになる。オオカミの開いた口は魔よけや泥棒よけにかけられる。風が穀物畑をわたるときオオカミが走るといわれ,オオカミは〈穀物狼〉とか〈麦狼〉と呼ばれて穀物畑の生長霊とみなされることもあり,同時に畑に入らないようにとの〈子おどし〉にもなっていた。
狼男
執筆者:

北方の遊牧民,狩猟民はオオカミの糞をたいてのろしにした。〈狼火〉〈狼煙〉といい,風が吹いてもまっすぐに上がるという。古代西域地方の遊牧民烏孫(うそん),突厥(とつくつ),高車やモンゴル族にはその祖先がオオカミから生まれ育ったとする始祖神話が伝わる。オオカミに対する畏怖(いふ)から神獣や部族の守護神とみなしたのであろう。昔話ではオオカミはつねに残忍貪欲(どんよく)の悪役で,結局殺されたり,退散させられる。〈中山狼〉,または〈東郭先生〉と題する忘恩のオオカミの話は昔から有名。命の恩人東郭先生をオオカミが逆に食べようとする。先生が三つの動物,または人物にその是非を問う。二つまでがオオカミに食われるべきだと答えるが,最後の者が評定のためオオカミに救命のようすを実演させ袋に入れて殺す。宋の謝良,明の馬中錫らの小説,戯曲《中山狼伝》は民間伝承から取材したものであろう。グリムの〈狼と七匹の子山羊〉,日本の〈天道さん金の鎖〉と同型の〈狼外婆〉の昔話もとくに華南に流布し,蛇婿と同型の狼婿の話もある。
執筆者:

オオカミは日本本土における唯一の肉食猛獣として,各地にその生息が見られたが,1905年に絶滅したと考えられている。古代から聖獣と考えられ,人語を解し人の性の善悪を見分けて悪人を害し善人を守ると信じられた。また,山の神の使者とも仮の姿ともいわれてオイヌサマの名で信仰の対象ともなっている。とくに近世有名であったのは関東秩父の三峰神社,中部地方の山住大権現で,熊野地方の神社や但馬,若狭地方にもこれを守札に刷って出した社寺があり,修験道の信仰もその流布にあずかったらしい。また,各地の伝承にも足のとげやのどの骨を抜いてやったところ,その礼としてシカの片脚を庭においていったとか山道での群狼の追求から守ってくれたと語るものがある。東北地方の一部や四国,九州では,オイヌまたはヤマノイヌは田畑を荒らす猪鹿(ちよろく)を追い,狩人にとらせてくれる益獣という考え方をしていた土地も少なくなく,草3本あれば身を隠すなどといった超能力をもつとも信じられた。山中で猪鹿がものに追われたように飛び出してきて,狩人に撃ちとられたりすると,これをオイヌがとらせてくれたとしてその肉の幾切れかを木に刺しておいてきたり,オオカミがたおしたらしい新しいシカの死体などは黙ってとってくると,あとからオオカミがついてきてあだをするといって,必ずオオカミの好む塩をひとつかみ代りに置いてくる習わしもあった。夜道を歩くとオオカミがあとをつけてきて,人がつまずき転ぶのを見ると襲いかかるといい,女性などに言い寄って悪事をたくらむ者を〈送りオオカミ〉などと呼んだのも,オオカミがしだいに家畜や人を襲うものとして認識され,信仰が変化してきた結果生じたのである。その理由としては,近世における農耕の進展が彼らの生活圏である林野を狭め,同時にその食糧である野生動物をも減少させた点にあるもののようである。

 狼害の記事はとくに江戸時代の中期から各地に現れてくる。それは民話に現れるような群れをなすオオカミの害ではなく,5~6頭以下の母子や雌雄といった小集団か孤狼が,家畜や幼少者などを襲うというものであった。信濃山間地や尾張の東部山村などではいずれも元禄年間(1688-1704)から報告が知られ,《本草綱目訳義》は,病にかかって山から荒れ出すことありとも述べているので,狂犬病伝染などの原因も考えられるが,詳しいことはわかっていない。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オオカミ」の意味・わかりやすい解説

オオカミ
おおかみ / 狼
wolf
[学] Canis lupus

哺乳(ほにゅう)綱食肉目イヌ科の動物。別名タイリクオオカミ。アメリカではコヨーテと区別してシンリンオオカミtimber wolf、ハイイロオオカミgrey wolfなどともいう。かつてはユーラシア、北アメリカ、メキシコに広く分布したが、いまでは西ヨーロッパ、アメリカ合衆国の大部分からほとんど姿を消し、イギリス、ポーランド、スイス、日本などでは絶滅した。大きさ、毛の長さや色などに個体差と地域差がある。寒い地方のものは一般に大形、淡色で毛が長いが、温暖な地方のものは小形、濃色、短毛である。約30の亜種に分けられているが、最小の亜種でも肩高は中形日本犬より大きい。体長80~160センチメートル、尾長30~50センチメートル、肩高55~97センチメートル、体重15~65キログラム、ときに82キログラムに達する。雌は雄より一般にやや小さい。前足は5指、後足は4指、歯は42本で、歯式は

で、吻(ふん)が長く、耳は直立して先がとがるなど、コヨーテやジャッカルによく似る。しかし吻端部が太く、鼻鏡(鼻孔周囲の無毛部)の幅は、それらの25ミリメートル以下に対し30ミリメートル以上あり、犬歯が太くて短く、乳頭は10個しかない。シェパード、ハスキーなどのイヌにも似るが、耳が小さく目がつり上がり、前頭部が丸くヘルメット状に盛り上がっている。また、四肢が長く左右の肘(ひじ)が接近し、尾が太い。頸(くび)と背筋の毛は、黒と灰褐色の混じり合った松の皮様の模様をもち、体側の毛よりふさふさして長いため、その境界は鮮明である。裂肉歯も一般にイヌより大きく、上顎のもの(第4前臼歯)は長さ18~29ミリメートルある。体の背面は普通、灰黄色から灰褐色、腹面と四肢の内側は淡色で、その境界は頬(ほお)や四肢では鮮明、前肢手根部の境界は多くは暗色斑(はん)で縁どられる。冬毛は夏毛よりも長く淡色。しばしば全身が白色または黒色の個体がある。

[今泉吉典]

種類と形態

最小の亜種はアラビア南部のアラビアオオカミC. l. arabsで、体長80~110センチメートル、肩高55~70センチメートルである。アラビア北部からインド北部まで分布するインドオオカミC. l. pallipesは体長87~120センチメートル、肩高60~72センチメートル、アラビアオオカミより長毛で、体側毛はインドオオカミが約3センチメートルに対しアラビアオオカミは2センチメートル以下である。トルコ、イランから天山、ヒマラヤ、チベットの4000メートルもの高地を通り、中国、朝鮮、ウスリーまで広く分布するチベットオオカミ(別名チョウセンオオカミ、朝鮮名ヌクテー)C. l. chancoは中形で、体長90~130センチメートル、肩高62~76センチメートル、体側毛は4~6センチメートル、肩の毛は12センチメートルに達する。毛色は普通、灰黄褐色、黒色の個体もまれでない。ヨーロッパからシベリア南部を通りアムールまでの森林地帯に分布するヨーロッパオオカミC. l. lupusは、体側毛は5センチメートルでチベットオオカミと違わないが、毛色は灰褐色で、普通、黄色を帯びず大形である。体長110~140センチメートル、肩高67~83センチメートル。1900年(明治33)ごろ絶滅した北海道のエゾオオカミC. l. hattaiは体長120~130センチメートル、頭骨はヨーロッパオオカミと同大であるが、歯が大きい。毛色や吻の長いところはチベットオオカミに似る。樺太(からふと)(サハリン)に現存するのはこの亜種といわれる。アラスカのアラスカオオカミC. l. pambasileusは最大の亜種の一つで、体長130~160センチメートル、肩高75~90センチメートル、ときに97センチメートルに達する。毛色は灰白色から黒色まで変化に富む。

[今泉吉典]

生態

オオカミは平地から山地までの森林、草原、ツンドラ、砂漠など、ごく深い森林を除きほとんどあらゆる環境にすみ、ツンドラから森林地帯へ、トナカイの群れについて片道160キロメートル、ときに360キロメートルもの季節的移動を繰り返すものもある。おもな食物はヘラジカ、アカシカ、トナカイなどのシカ類、バイソン、ジャコウウシ、野生のヤギ、ヒツジ類、ビーバーで、ときにウマ、ウシ、ヒツジなどの家畜を襲うが、狂犬病にかかったもの以外は人間を襲うことはほとんどない。夏はネズミ、トカゲ、カエル、地上で抱卵中の鳥、果実、死肉なども食べる。大形の獲物は群れで襲う。追いかける距離は100メートル以上5キロメートル以下が普通で、時速55~70キロメートルを出し、手分けして追い詰める。獲物を殺すと、大きな骨と皮以外はほとんど食べ尽くし、1頭で10キログラムも食べる。しかしその後は数日食べないので、平均すると1日に3~4キログラムとなる。群れは36頭もの例もあるが、普通は5~8頭の家族群で、厳しい順位制がある。群れの狩猟用の縄張りは130平方キロメートルから1万3000平方キロメートルにも達し、その中を時速8キロメートル、1日に数キロメートルから72キロメートルの割りでおもに夜巡回し、縄張りの境に尿と糞(ふん)でマーキング(印づけ)し、他の群れの侵入を防ぐ。見知らぬオオカミを見つけると殺すことが多い。餌食(えじき)とする動物は1歳以下の幼獣、老獣、病気にかかったものなどで、捕食は、獲物となる動物の増えすぎを防ぎ、その群れを健康に保つのに役だっている。交尾期は南方では1~2月、極北では4月上旬に始まる。妊娠期間は63日前後、1腹3~10子、普通5~7子を、雌が地を掘ってつくった巣穴に産む。そのほか、岩穴や樹洞をそのまま巣穴に用い、あるいはキツネの巣穴を広げて利用することもある。新生子は500グラム前後、暗褐色のうぶ毛で覆われ、目は閉じたままで5~15日後に開き、5週間で離乳するが、母親は2か月間、子の近くにいる。この間、群れの仲間は、食物をくわえ、あるいは飲み込んで巣穴に運び、吐き出して雌や子に与える。母親が狩りに加わるときは、若い雌が1頭残って子の世話をする。子は2歳で性的に成熟するが、3歳にならないと繁殖しないことが多い。寿命は飼育下では16歳に達するが、野生のものは10歳以上生きることはまれである。声は約7種類ある。遠ぼえは群れの仲間を招集するときに使うほか、縄張りを他の群れに知らせる機能もあると推測されている。

[今泉吉典]

近縁種

かつて本州、四国、九州にいたが、1905年(明治38)奈良県の鷲家(わしか)口で捕獲されたのを最後に絶滅したとみられるニホンオオカミ(ヤマイヌとも称される)C. hodophilaxは、オオカミの亜種とされることが多いが別種と思われ、体長が82~110センチメートルとインドオオカミと同大なのに、四肢が短いため肩高は40~55センチメートルしかない。また耳と吻が短く、目が低く位置し、オオカミと違って目の周りに淡色斑がない。アメリカ合衆国のテキサス南東部とルイジアナ南西部に少数が残存するが、絶滅が心配されているアメリカアカオオカミC. rufus (C. niger)は肩高70センチメートル前後、オオカミより四肢が長くて耳が大きく犬歯が細長い。毛色が一般に赤みが強いためこの名があるが、オオカミと区別できない毛色のものや、黒色の個体もある。なお、アジアのアカオオカミ(ドールともいう)Cuon alpinusは別属で、リカオンに近縁である。

[今泉吉典]

民俗

オオカミを神の使者とする神社は各地にある。山の神を祀(まつ)る神社の特徴で、古くは神そのものがオオカミの姿であると考えられていたようである。東京都青梅(おうめ)市の武蔵御嶽(むさしみたけ)神社もその一例で、お姿と称して、オオカミの座った姿を描いた「大口真神(おおくちのまかみ)」のお札を受けてきて、盗人除(よ)けや農作物の害獣除けなどにする。狐(きつね)が憑(つ)いたのを払うためにも用い、それには本物のオオカミを借りてくることもできるという。「大口真神」とは『万葉集』にみえることばで、口の大きなオオカミを意味し、奈良時代ごろからオオカミを神聖視していたことがわかる。中世の文学でも、山の神はオオカミの姿で描かれている。

 オオカミを眷属(けんぞく)とする埼玉県秩父(ちちぶ)市の三峰神社(みつみねじんじゃ)では、オオカミがお産をする声を聞くと、山中に小豆飯(あずきめし)と酒を供えた。同じ習俗は、神奈川、山梨、長野、愛知の諸県にもあった。オオカミは一般に母性とかかわりの深い獣とされ、情欲が淡く、交尾をしているところを見られるのを嫌うという。神奈川県の山村では、オオカミの頭蓋骨(ずがいこつ)を祀り、赤子の夜泣きを止める祈願をした。高知県には、お産にかかわった人をオオカミがねらうという伝えもあり、安芸(あき)郡野根山(のねやま)の杉の木の上でお産をしている女を、鍛冶屋(かじや)の老婆に化けていたオオカミが仲間とともに襲ったという伝説は有名である。この杉を「産の杉」とよび、皮を煎(せん)じて飲むと安産であるという俗信もあった。静岡県藤枝(ふじえだ)市や山形県鶴岡(つるおか)市の朝比奈(あさひな)家は、オオカミの連れてきた赤子の子孫であるという伝えがある。このようにオオカミが出産と結び付いた伝説が多いのは、古来山の神をお産の神とするのと同源の信仰であろう。

 アイヌでも、オオカミを神とする。「オオカミ神」とよび、山の上手(かみて)を支配する神というから、やはり山の神である。アイヌをはじめ、シベリアのトルコ系諸民族やモンゴルには、オオカミを父とする人が始祖であるという起源伝説がある。

 ヨーロッパでは、人がオオカミに変身するという人狼伝説(じんろうでんせつ)が古代からよく知られている。フランス、ドイツ、スラブ諸国では、オオカミを穀物霊としており、最後に刈った穀物の束でオオカミの形をつくる風習もあった。

 また、冬至祭にオオカミの毛皮をつけた男が登場したり、オオカミの剥製(はくせい)を担ぎ回ったりするのも穀物の豊穣(ほうじょう)を祝う行事である。

[小島瓔

『直良信夫著『日本産狼の研究』(1965・校倉書房)』『A・ムーリー著、奥崎政美訳『マッキンレー山のオオカミ』上下(1975・思索社)』『平岩米吉著『狼――その生態と歴史』(1981・池田書店)』


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百科事典マイペディア 「オオカミ」の意味・わかりやすい解説

オオカミ(狼)【オオカミ】

タイリクオオカミ,マダラオオカミ,シロオオカミとも。食肉目イヌ科の哺乳(ほにゅう)類。体長1〜1.5m。体形はイヌに似るが,吻(ふん)は長く,耳は小さくて直立,尾はたれる。体色は灰褐色のものが多い。ユーラシア〜北米北部に分布。森林,タイガ,ツンドラ,砂漠,平地や山岳地にすみ,家族ないし単独で行動するが,冬季は群生。ヘラジカ,カリブー,シカをはじめ鳥獣を捕食し,牛,馬など大型の家畜を襲うこともある。イヌとも交配できる。日本にはかつて北海道に大型のエゾオオカミ,本州,四国,九州に小型のニホンオオカミ(ヤマイヌ)がいたが,前者は1900年ごろ,後者は1905年を最後に絶滅した。両者とも絶滅(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目イヌ(犬)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オオカミ」の意味・わかりやすい解説

オオカミ
Canis lupus; wolf

食肉目イヌ科。体長1~1.4mで,北方に分布するものほど大きい。体色は灰色を帯びた茶色が普通であるが,北アメリカ北部にはほとんど白色のものもいる。群れをなして生活し,狩猟も協力して行ない,ノネズミ,ウサギ,シカ,魚類などを捕えて食べる。カナダ,アラスカなど北アメリカ,およびアジア,ヨーロッパに分布し,ツンドラ,平原,森林地帯に生息する。かつては日本にも亜種ニホンオオカミなどがいたが,明治年間に絶滅したといわれている。

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小学館の図鑑NEO[新版]動物 「オオカミ」の解説

オオカミ
学名:Canis lupus

種名 / オオカミ
科名 / イヌ科
解説 / ペアを中心に、順位がきちんと決まった群れをつくります。狩りや子育ても協力して行います。
体長 / 1~1.5m/尾長30~55cm
体重 / 20~80kg
食物 / ヘラジカ、バイソン、ウサギなど
分布 / 北アメリカとユーラシアの森林

出典 小学館の図鑑NEO[新版]動物小学館の図鑑NEO[新版]動物について 情報

世界大百科事典(旧版)内のオオカミの言及

【シマアジ(縞鰺)】より

…小さいものをコセ(和歌山),コセアジ(高知)という。全長1mに達するが,特大魚は東京でオオカミと呼ばれあまり喜ばれない。市場価値の高いのは30~40cm,300~400gのもの。…

【イヌ(犬)】より

…また前肢には暗色縦斑を欠き,この点ではシメニアジャッカル(アビシニアジャッカル)とセグロジャッカルに似ている。 原始的な形態を保っているイヌは,その原種と一般に見られているタイリクオオカミによく似るが,上記の毛の特徴のほか次のような点が異なっていて,識別は困難ではない。すなわちイヌは体長の割りに四肢が短く,胸が広く,左右のひじがオオカミのように接近していない。…

【毛皮】より

…次いでアザラシの皮が多用されている。またオオカミの毛皮は多量に入手できないが,最も保温性に富むところから,手袋として珍重されている。エスキモーの毛皮の使用例をみると,彼らは-40℃にもなる野外の活動には,アノガジェと呼ばれている毛皮の衣服を身につける。…

【動物】より

…また羊を守る囲いは教会のシンボルとなった。さらにそうした羊に襲いかかって連れ去るオオカミは,キリスト教徒を教会から離脱させ,異なった教団へと誘惑する異端のシンボルとなり,そうしたオオカミと身体を張って戦い,羊飼いおよび羊たちのために全力を尽くす牧羊犬は,異端撲滅のための説教修道士や十字軍戦士のシンボルとなった。そのもっとも典型的な図像表現がフィレンツェ,サンタ・マリア・ノベラのフレスコ画であろう。…

【御岳山】より

…東京都西部,青梅市にある山。標高929m。金峰山(きんぷせん),武州御岳(嶽)ともいう。江戸西方の蔵王信仰の山として知られる。全山うっそうたる森林におおわれ,山頂に御岳神社が鎮座する。神明造の荘厳な社殿をもち,境内は広い。南方約2kmの男具那ノ峰(1070m)に奥の院があり,秩父連山や伊豆諸島までの雄大な展望が開ける。またコノハズクなど野鳥が多く生息する。御岳山頂へは北東麓の滝本からケーブルカーが通じる。…

【三峰山】より

…埼玉県秩父郡大滝村,荒川上流域にある秩父山地中の山。古くは妙法ヶ岳(1332m),白岩山(1921m),雲取山(2018m)の3峰を三峰と称し,近世における山岳修験の聖地であったが,現在は三峰神社のある標高1102mの山のみを三峰山と呼ぶようになっている。秩父古生層の砂岩やケツ岩からなり,全山が杉,ヒノキの古木におおわれている。秩父多摩国立公園に含まれ,みやげ物店が並ぶ山麓の大輪からロープウェーが神社まで通じる。…

※「オオカミ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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