ドイツのグリム兄弟(兄ヤーコプと弟ウィルヘルム)が収集し編成した世界的に有名な童話集。原題は《子どもと家庭のための昔話集Kinder-und Hausmärchen》。初版第1巻1812年,第2巻15年,第3巻(資料注解,文献解説)22年刊。兄弟は民族的・民衆的なものを強く志向するロマン主義の流れの中で,とくに友人A.vonアルニムとC.ブレンターノ共編の民謡集に触発されて,民間に語り継がれている昔話を採集した。民族の文化遺産を保存するという学問的目的から直接口伝えによったが,古文献からも採録し,決定版と見るべき第7版(第1巻・第2巻1857年)には魔法童話,動物童話,笑話,ほら話,聖徒伝など多種多様な210編が収められ,〈白雪姫〉〈赤ずきん〉〈ヘンゼルとグレーテル〉などがとくに有名である。〈童話ばあさん〉とよばれたフィーマンのような理想的な語り手にも恵まれたが,そのすぐれた芸術性は増補改訂を一手に引き受けて,自然の語り口にふさわしい独特な文体を創りあげたウィルヘルムに負うところが大きい。《グリム童話》は伝承文芸の収集と研究を著しく促進し,創作童話にも刺激を与えた。翻訳も多く,今日では70を超える言語に移され世界中に普及している。最初の邦訳は1887年(明治20年)に出た桐南(どうなん)居士(菅了法(すがりようほう))による抄訳《西洋故事神仙叢話》と言われている。グリム童話は児童読物として歓迎されているだけでなく,いわば人間研究の好個の資料として多くの学問分野で取り上げられ,日本でも深層心理学的アプローチが盛んに試みられている。
執筆者:橋本 郁雄
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…道草を食っておそく着いた赤ずきんもその狼に食べられる。 ペローの話はここで終わるが,ドイツの《グリム童話》では,このあと,通りかかった狩人が,眠っている狼の腹を切開し,祖母と赤ずきんを救出する。赤ずきんが狼の腹の中へ大きな石を入れておくと,目をさました狼は,腹が重くて倒れて死ぬ。…
…これは《グリム童話》第5番の題名であるが,これと同じタイプの昔話は,中欧,東欧,ロシア,フィンランド,そしてアイルランドなどに分布している。母山羊の留守に狼が来て,母を装って戸を開けさせようとする。…
… ジャータカはインド各地の昔話や寓話にもとづいているため,共通の説話がヒンドゥー教やジャイナ教の聖典中にも見いだされる。これらの民話を集成した《パンチャタントラ》は,のちにシリア語やアラビア語に訳されて西方に伝播し,《イソップ物語》や《アラビアン・ナイト》,さらには《グリム童話》,J.deラ・フォンテーヌの《寓話》などに影響を与えた。また,日本へも前述の漢訳文献を通じて《今昔物語集》などに入っている。…
…たいていは双子の兄弟とされる,ヨーロッパの代表的な昔話。《グリム童話》では60番がこの話型である。女と犬と馬が同じ魚(またはリンゴ)を食べてそれぞれ双子を生む。…
…《グリム童話》ではこの題名がつけられているが,またの名を〈真実と偽り〉という話型。二人の兄弟(または仲間)が真実と偽り(または二つの宗教)の価値について争い,道で出会った人間(動物)に仲裁を依頼する。…
※「グリム童話」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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