ウリから生まれた女の子を主人公とする昔話で,〈瓜姫〉〈瓜子織姫〉〈瓜姫子〉〈瓜姫御寮〉などとも呼ばれ,全国に広く分布している。機織を好む美しい姫に成長した瓜子姫が,山からやってきたアマノジャクにだまされて殺されそうになるが,間一髪のところで救われ,殿様の嫁になって幸福に暮らす話と,これとは対照的に無惨に殺されてしまう話とがあり,前者は西南日本に多く,後者は東北・北陸地方に多くみられる。しかし,アマノジャクが姫をだまして縛りあげたり殺したりしたあと,姫に化けて嫁入りしようとするが,発覚して退治されるという点ではほぼ共通している。姫の敵はアマノジャクのほか,山姥(やまうば)や鬼婆,猿などとなっていることもある。この昔話は,ソバやキビ,アワ,カヤなどの茎や根が赤いのは殺された瓜子姫もしくは退治されたアマノジャクの血がこれらの植物についたためである,という説明をともなっていることが多いが,これらが栽培されていた畑作(焼畑)地域で主として語られた昔話であったことを示しているとも考えられる。ウリからの異常誕生という点では〈桃太郎〉と通じるが,ウリと機織という点からみると,やはり焼畑地域で伝承されていたとみられる七夕起源譚を伴う〈天人女房〉との間の関連も考えられる。また,この昔話を考える場合,ウリが古くから霊の依代(よりしろ)とされていたことも無視できない。文献では,近世初期のものと思われる御伽草子絵巻《瓜子姫物語》が残されている。内容は幸福な結末で終わる型の昔話とほぼ一致する。
→天邪鬼(あまのじゃく) →瓜姫物語
執筆者:小松 和彦
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昔話。果物から生まれた主人公の冒険を主題にした異常誕生譚(たん)の一つ。子供のいない老夫婦がある。婆(ばば)が川で瓜を拾い、爺(じじ)といっしょに食べようとすると女の子が生まれる。姫は成長して機(はた)織りが上手になる。嫁入りが近づいたとき、天邪鬼(あまのじゃく)がきて、姫をだまして木に縛り付け、姫に化ける。嫁入りの途中、木の上から、天邪鬼が嫁に行くという声がする。天邪鬼は殺され、助け出された姫が無事に嫁入りする。この昔話では、天邪鬼は、人の邪魔をする妖怪(ようかい)とされている。比較的まとまった形で分布している昔話で、室町期の物語草子の『瓜姫物語』や、『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』(1830)にもみえる。中国には、畑にできた瓜から生まれた英雄の昔話もあり、「桃太郎」と一対をなすことが注目されてきたが、「瓜子姫」には独自の歴史がある。ヨーロッパをはじめ、トルコ、インド、ビルマ(ミャンマー)、チベットなどに広がる「三つのみかん」の昔話の日本的変化である。東日本では、姫は殺されて小鳥が事件を告げるとし、西日本では殺されなかったように伝えるが、「三つのみかん」と比較すると、姫は殺されて小鳥の姿になり、天邪鬼が殺されたのち、よみがえって元の姿に戻ったというのが原形であったかもしれない。
[小島瓔]
(小松和彦)
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…異常出生譚の一つで,〈桃太郎〉の桃と同じく瓜にも神秘なものが宿ると考えられ,姫の体験する危難は成女式の反映ともいわれる。昔話の〈瓜子姫〉ときわめて近い関係にあり,姫がアマノジャクに殺害されるという東日本に多い型と,姫は殺されず助けられて幸福になるという西日本に多い型とがある。【浅見 和彦】。…
…一度は狼に食べられた子山羊が生きて現れるのは,〈赤ずきん〉と同様,シャマニズムの通過儀礼にみられる〈死と再生〉のかすかななごりと考えられる。親の留守に子どもが悪者によって殺され,戻ってきた親によって救出されるという骨組みにしてみれば,日本の昔話〈瓜子姫〉も同じ構造をもつことがわかる。【小沢 俊夫】。…
…その体軀短小ながら異常な能力を発揮するという説話的人物としての型は,のちの伝承の世界に多くの類型を生み出していった。スクナビコナは,かぐや姫,一寸法師,瓜子姫,桃太郎等々のはるかな先蹤(せんしよう)である。なおオオナムチ,スクナビコナは医療,禁厭(まじない)の法を定めたとされる(《日本書紀》神代巻)だけに,温泉の開発神とする伝えが各地に多くみられ(伊予国,伊豆国の《風土記》逸文など),延喜典薬式に用いられている薬草石斛(せつこく)はスクナヒコノクスネ(少名彦の薬根)と呼ばれた(《和名抄》《本草和名》)。…
※「瓜子姫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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