生命記号論(読み)せいめいきごうろん(その他表記)biosemiotics

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生命記号論」の意味・わかりやすい解説

生命記号論
せいめいきごうろん
biosemiotics

生命が神秘なものではなく情報過程にほかならないことは、今日では広く知られている。けれどもそれは、どのような情報過程なのだろうか? 生物学の主流においては、生命情報の実体遺伝子DNAに代表されるような分子的レベルの実在であり、その構造は客観的に記述することができ、その意味でデジタル・コンピュータの扱う情報と基本的には同じ、中立的な存在だと考えられている。こうした主流派生命科学に対して、DNAその他に表現された特定の情報の意味を解釈する主体はだれか? と問うのが生命記号論である。それによれば、生命とは意味をもつ複雑なコミュニケーションの過程であり、そこでは遺伝子ばかりではなく生物個体そのものも、未来の世代に向けられた「メッセージ」と考えることができる。「生命記号論」ということば自体は、もともとデンマークの生化学者J・ホフマイヤが、C・S・パースの記号論を生命論に応用することから提唱しはじめたものだが、こうした考え方の源流には、「環世界」で知られるエストニアの生物学者ユクスキュルの思想が流れている。

吉岡 洋]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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