改訂新版 世界大百科事典 「生態学的効率」の意味・わかりやすい解説
生態学的効率 (せいたいがくてきこうりつ)
ecological efficiency
すべての生物はエネルギーや物質を取りこみ自己のからだを作ったり,活動したりしている。その際の取りこんだエネルギーに対する同化したエネルギーの量的関係を利用効率として表すことがある。同様に,生態系において,それを構成しているさまざまな栄養段階においてエネルギーの利用効率を求めることができる。リンデマンR.L.Lindemanは生態系の概念を確立した古典的な研究(1942)において,ある栄養段階の同化エネルギー⊿nとそのすぐ下位の栄養段階の同化エネルギー⊿n-1の比⊿n/⊿n-1を求め,これを累進効率progressive efficiencyと呼んだ。これは後にリンデマン比またはリンデマン効率と呼ばれるようになった。こうした効率はほかにも種々考案されている。(1)同化効率 入ってくるエネルギーIと同化されたエネルギーAの比A/I。(2)粗生産効率 入ってくるエネルギーと純生産Pnとの比Pn/I。(3)生態効率 入ってくるエネルギーIと次の栄養段階へ行くエネルギーYとの比Y/I。(4)生産効率 同化エネルギーAとそのうち生物体になるエネルギーPとの比P/A。これらはすべて生態学的効率といえる。
一次生産者(緑色植物)が太陽エネルギーを利用する際の効率も生態学的効率の一つであり,特にエネルギー効率とも呼ぶ。生育期間中の入射エネルギーに対する固定された有機物のエネルギーの比を求めると,総生産については森林ではかなり一様で2.1~3.2%の値が報告されている。多年生草本群落では1.5%前後と低く,一年生草本であるイネ群落では日本の平均収量から1.2%であるとされている。海洋のプランクトン群集ではさらに効率は低い。純生産については生活型により変動が大きくなる。ホイッタカーR.H.Whittakerはこれらの資料をまとめて地球上の一次生産者によるエネルギー効率を推定しているが,それによると総生産では0.6%,純生産では0.27%となっており,消費者である人間が利用できる太陽エネルギーが意外に少ないことが明らかとなった。また,スロボトキンL.B.Slobodkinは,動物個体群における生態効率は,5~20%に大部分が入ることを予測している。生態的ピラミッドは,これらの生態学的効率を図示しているものといえよう。
執筆者:林 秀剛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報