日本大百科全書(ニッポニカ) 「由来石」の意味・わかりやすい解説
由来石
ゆらいせき
歴史的ないわれをもつ名石。なかには、まったく確証のない伝説めいたものもあれば、また来歴だけはりっぱで、その形状や石質などに観賞価値の乏しいものもある。いずれにせよ、愛石の歴史を研究するうえでなんらかの意味をもつ貴重なものといえようが、ここでは来歴に確実性があり、また観賞上でも名石と称しうるおもなものをあげておく。(1)本願霊石 親鸞上人(しんらんしょうにん)が京都五条の西洞院(にしのとういん)で発見したといわれるもの。石質からみると古谷石(ふるやいし)である。高野山(こうやさん)巴陵院(はりょういん)蔵。(2)夢の浮橋 後醍醐(ごだいご)天皇の遺愛石。中国渡来の名石で、両端のみが地に接し、中間部が橋のように浮いている。徳川美術館蔵。(3)末(すえ)の松山 中国渡来の名石。織田信長が石山戦争の和に際し、西本願寺に贈った来歴をもつ。もとは足利義政(あしかがよしまさ)の遺愛石であった。西本願寺蔵。なお、紀州徳川家にも「末の松山」の銘をもつ徳川家康遺愛の真黒(まぐろ)山形の由来石が伝えられている。(4)残雪 五山の高僧虎関師錬(こかんしれん)の時代に発見されたと伝えられる残雪の景石。西本願寺蔵。(5)重山(かさねやま) 小堀遠州(こぼりえんしゅう)が茶席に飾るには最高の石として激賞したもの。蒼黒(そうこく)の山々が重なり、渓流もみられる。九州・細川家蔵。(6)初雁(はつかり) 小堀遠州の遺愛石。灰黒の山形で、ほぼ中央部に雁(がん)の形の白色紋が出ている。徳川美術館蔵。(7)大和(やまと)群山 頼山陽(らいさんよう)の遺愛石と伝えられるもの。加茂川産らしいとの説がある。連峰形で、景観が雄大である。頼家蔵。(8)暁 頼山陽遺愛石。丹波(たんば)産で、もとは赤石らしかったが、長年の持ち込みで肌は黒ずんでいる。連峰石。頼家蔵。(9)黒髪山 松平定信(さだのぶ)が江戸幕府に献上したもの。日光・中禅寺湖(ちゅうぜんじこ)のほとりで発見され、その姿が黒髪山(男体山(なんたいさん))に似ているところからこの銘がある。上野・寛永寺蔵。
[村田圭司]