痔瘻がんとは

六訂版 家庭医学大全科 「痔瘻がんとは」の解説

痔瘻がんとは
(直腸・肛門の病気)

 長期間にわたり(多くは10年以上)、複雑痔瘻(ふくざつじろう)を放置していると、まれにそこからがんが発生することがあり、これを痔瘻がんといいます。痔瘻の炎症が慢性刺激となって細胞機構に障害が生じ、細胞の悪性変化を引き起こすためと考えられています。

 痔瘻がんと診断する場合は、ほかに直腸がん結腸がんが存在しないことが条件になります。組織型は粘液がんが最も多く、ついで腺がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんの順になります。痔瘻がんが発生する痔瘻のタイプは、坐骨直腸窩痔瘻(ざこつちょくちょうかじろう)骨盤直腸窩痔瘻(こつばんちょくちょうかじろう)が大半を占めます。

 痔瘻がんの症状としては、複雑痔瘻が長期にわたってうみを出したり、はれたりを繰り返しているうちに、新たに持続的な疼痛や便が出にくくなる狭窄(きょうさく)症状が現れます。また、肛門部にこれまでなかった硬結(こうけつ)(硬い部分)やゼラチン状の分泌物(コロイド)を自覚します。

 診断は、腰椎麻酔(ようついますい)で硬結部や瘻口(ろうこう)部の組織の生検を行います。コロイドの細胞診から確定診断されることもあります。

 痔瘻がんの治療は、直腸がんに準じた永久的人工肛門を伴う直腸切断術を行います。局所再発を予防するために、術後に化学療法や放射線療法を行うこともあります。痔瘻がんは、局所のがんが進行していることが多いため、局所再発を来しやすく、5年生存率は約40%で、直腸がんやほかの肛門がんと比べると予後は不良です。

典型的な症例

 65歳の男性です。約30年前から肛門のまわりに硬い部分があり、そこから時々うみが出ていたのですが、とくに痛みもなく生活に支障がなかったため放置していました。近ごろだんだんと便が出にくくなってきたことを気にしていたところ、最近になって痛みを伴うようになったため病院を受診しました。

 初診時の肛門診察では、肛門の縁にやや大きなうみの出口(痔瘻の二次口)を認め、通常の痔瘻ではみられないゼラチン様の物質の排出がありました。また、直腸指診では直腸の壁は腫瘤(しゅりゅう)状に硬く狭くなっていました。

 以上により、複雑痔瘻(骨盤直腸窩痔瘻)に合併した痔瘻がんが疑われたため、腰椎麻酔をして生検を行い、粘液がんと確定診断しました。後日、根治的切除術としての直腸切断術が行われました。

 一般的に、通常の痔瘻からがんが発生することは極めてまれです。痔瘻があるからといって、がんを心配することはありませんが、このように長期間にわたって複雑痔瘻を放置していたケースで、まれにがんが発生することがあります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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