日本大百科全書(ニッポニカ) 「直腸がん」の意味・わかりやすい解説
直腸がん
ちょくちょうがん
rectum cancer
直腸に発生するがん(悪性腫瘍(しゅよう))。大腸は結腸と直腸からなり、直腸は大腸の末端で、肛門(こうもん)から約15センチメートルの部位にあたり、おもな機能は排便である。直腸はがんの好発部でもあり、大腸がんの約20%が直腸に発生する。直腸がんの発生原因や病期分類は結腸がんと同様であり、過去には日本人の大腸がんの多くが直腸がんであったが、食生活の変化によって結腸がんが急速に増えたため、直腸がんの比率は相対的に低下している。
大腸がんが結腸がんと直腸がんに分けられる理由は、腹腔(ふくくう)内にある結腸に比べて骨盤腔内にある直腸は手術手技が困難で、しばしば人工肛門の造設が必要になることによる。性別では男性にやや多い。初期には無症状であることが多く、進行すると血便や排便時出血、便柱狭小(便の形状が細くなること)、排便困難などの症状を呈する。
診断のための検査として、下部直腸がんでは直腸指診も行われるが、直腸鏡や下部消化管内視鏡検査、注腸X線検査などが行われる。これらに加え、がんの進行の程度を調べるためにCTや腹部超音波検査も行われる。最終的な診断は内視鏡検査で採取された組織による病理診断によってなされる。
治療は、手術可能の場合には手術が原則であるが、早期がんでは内視鏡治療や局所切除が行われ、下部直腸がんでは肛門管を含めた切除により人工肛門が造設される。しかし、上部や中部直腸がんでは人工肛門をつくらない排便機能温存手術が行われる。進行がんでは骨盤内に再発することが多いため、手術前の放射線治療や骨盤リンパ節郭清(かくせい)(リンパ節の切除)が併用されている。また、手術による骨盤内の自律神経損傷による術後の排尿障害を防ぐために、神経温存手術(自律神経温存術)もくふうされている。また、進行がんでは手術前後に結腸がん同様の薬物療法(殺細胞性の抗がん剤を用いた化学療法)が併用される。
[渡邊清高 2019年8月20日]