家庭医学館 「結腸がん」の解説
けっちょうがん【結腸がん Colonic Cancer】
大腸は結腸(けっちょう)と直腸(ちょくちょう)に分類され、結腸はさらに虫垂(ちゅうすい)、盲腸(もうちょう)、上行結腸(じょうこうけっちょう)、横行結腸(おうこうけっちょう)、下行結腸(かこうけっちょう)、S状結腸に分類されます。この結腸に発生したがんが結腸がんです。
日本では胃がんの発生頻度が高く、大腸(だいちょう)がんの頻度は欧米に比べて少ないとされていましたが、近年、大腸がんの発生頻度の増加が著しく、胃がんと同程度の発生頻度にまで増加してきています。
人口動態統計によると、日本では人口10万人あたりの結腸がんによる死亡率は、1955年と26年後の1981年を比較すると男性が約3倍、女性が約2倍に増加しており、なかでもS状結腸、ついで下行結腸と左側結腸のがんの頻度が高いといわれています。
[原因]
日本における結腸がんの増加の原因としては、平均寿命の高齢化と食習慣の欧米化(高脂肪、低繊維食)が大きくかかわっていると考えられます。
このことは北米在住の日系二世の結腸がんの発生頻度が、結腸がん多発地域である北米人の発生頻度に近づいていることからも類推されます。
厚労省の調査によると、現在の日本人の脂肪摂取量は1949年のそれと比較して3.6倍にも増加しており、なかでも、魚類を除く動物性脂肪の摂取量の増加が、結腸がん増加原因の重要な因子と考えられています。
[症状]
結腸を横行結腸の真ん中で右側と左側とに分けると、右側結腸(うそくけっちょう)がん(虫垂(ちゅうすい)、上行結腸、横行結腸右側)と左側結腸(さそくけっちょう)がん(横行結腸左側、下行結腸、S状結腸)に分けられますが、症状にちがいがあります。
●右側結腸がんの症状
右側結腸は内腔(ないくう)が太く、また通過する便の性状も液状ですから、がんが進行して大きくなるまで、通過障害による症状が現われにくく、発見が遅れることが少なくありません。
一般に消化管のがんは、腸内容物の刺激によって出血しますが、右側結腸に発生したがんでは、肛門(こうもん)から排泄(はいせつ)されるまでに時間がかかり、黒ずんでいるため、赤い血として肉眼で観察されることはあまりありません。
がんが進行すると腹痛がおこったり、腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)を触知したり、貧血や食欲不振、体重減少などの全身症状が現われます。
●左側結腸がんの症状
左側結腸は右側結腸とちがって内腔が細く、便は水分が吸収されて固形状になってくるので、便の通過障害の症状が比較的早期に現われます。
すなわち、下痢(げり)と便秘をくり返したり、便が細くなる、ガスがたまっておなかが張る、おなかがごろごろ鳴り腹痛をともなうなどの症状が特徴的です。また肛門に近いため、赤い血が便にまざっていたり、便の周囲に付着しているのを肉眼で観察することができます。
●早期がんの症状
自覚症状としてはまったくないと考えてよいでしょう。
発見のきっかけは、検診などで行なわれる便潜血(べんせんけつ)検査の結果が陽性のために受けた精密検査によって、たまたま発見されることが多いものです。
[検査と診断]
結腸がんは一般にポリープ(腸粘膜に発生するキノコのような腫瘤)から早期がんとして発生し、進行がんに移行することが多いと考えられています。
診断に用いられる検査法は、化学検査で便中の微量な血液の混入を検出する便潜血検査、肛門から硬性の内視鏡を挿入してS状結腸まで観察できる直腸鏡検査、肛門からバリウムを注入して大腸全体のX線造影を行なう注腸バリウム検査、約120cmの長さのやわらかい内視鏡を肛門より挿入して全大腸を観察する大腸ファイバースコープ検査などがあります。
検査は、患者さんの症状を的確に把握して行なわれます。ふつうは、まず、侵襲(しんしゅう)(身体的負担)の少ない便潜血検査や直腸鏡検査から始めるので、がん年齢(40歳以上)になって疑わしい症状に気がついたら、積極的に検査を受けるようにしましょう。
ただし、胃がんの検診と異なって、注腸バリウム検査や大腸ファイバースコープ検査は、あらかじめ大腸の中を空(から)っぽにしておかなければならないので、煩雑で身体的負担も大きいのですが、1回の検査でポリープなどの異常が認められなければ、数年に1回の検診で十分なものです。
[治療]
大腸がんは、ほかの消化管のがんに比べると、外科的治療によって治りやすいといわれていますが、早期に発見して治療を受けるにこしたことはありません。
早期がんはポリープの形で発見されることが多いのですが、リンパ節転移がない場合には大腸ファイバースコープによるポリープ切除術で治癒(ちゆ)します。
進行がんでリンパ節転移が疑われる場合には、周囲のリンパ節を含めた腸管切除手術が必要となりますが、結腸がんは比較的手術が容易で、人工肛門などの不快な後遺症を残すことがありません。
最近、がんの程度によってはおなかを大きく切らないで、腹壁から腹腔鏡(ふくくうきょう)を挿入して腸管を切除する腹腔鏡下結腸切除術(ふくくうきょうかけっちょうせつじょじゅつ)が行なわれるようになってきています。これは手術後の疼痛(とうつう)もほとんどなく、術後1週間以内に退院することが可能です。
●手術後の養生
結腸がんは治療効果が高いので、早期がんではほぼ100%、進行がんでも遠隔転移がなければ約85%は治癒します。
最近、大腸がんは遺伝子の異常によって発症することがわかりました。一度、結腸がんにかかった人は、第2の結腸がんが発見される可能性が高いことをつねに念頭におき、医師の指示により定期的に検査を受けて、早期に第2のがんを発見する必要があります。