皇帝伝(読み)こうていでん(英語表記)De vita caesarum

改訂新版 世界大百科事典 「皇帝伝」の意味・わかりやすい解説

皇帝伝 (こうていでん)
De vita caesarum

1世紀のローマ伝記作者スエトニウスの著したユリウス・カエサルからドミティアヌスに至る12人の皇帝の伝記。《皇帝列伝》《十二皇帝伝》などとも訳される。冒頭の一部を除いてほぼ完全に現在まで伝えられている。本書は,主題に対する関心の強さと簡潔な文体近世に至るまで伝記の模範とされた。各章は主人公の出自に始まり,生い立ちから帝位に就くまでを記述する。次に個々人に応じてその人物の性格,行動が描かれ,多くの逸話が挿入される。終末部には主人公の死の模様が語られ,時にその肉体的特徴,個人的性癖が付け加えられている。スエトニウスの伝記が彼以前の歴史記述,伝記やほぼ同時代の伝記作者プルタルコスの《英雄伝》ととくに異なっているのは,題材が編年的に取り扱われていない点にあり,歴史的関心が薄かったと思われる。また,以前に書かれたさまざまな文書からの直接引用を導入したスタイルは,以後ゲリウスマクロビウスに受け継がれていった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の皇帝伝の言及

【スエトニウス】より

…彼は小プリニウスの友人で,トラヤヌス帝,ハドリアヌス帝の時代に活躍した。著作としては,部分的に現存するローマの修辞家,詩人たちの伝記《名士伝》,カエサルからドミティアヌスに至る12人の皇帝の伝記《皇帝伝》がよく知られている。文芸の一ジャンルとしての伝記は,古典期ギリシアの歴史記述以来の長い伝統の上に立っており,スエトニウスもこの流れの中に位置する一人であったが,中世,近世を通じて,ほぼ同時代の伝記作者プルタルコスよりもはるかに大きな影響を及ぼした。…

【伝記】より

… ここまでは東西軌を一にした推移といえようが,独立した伝記ジャンルのその後の発展となると,秤皿は大きく西洋のほうに傾く。すでにローマ時代,スエトニウスの《皇帝伝》は,ゴシップ的な語り口で,12人の帝王の風貌と性行を鮮やかに浮かび上がらせて近代伝記を先駆する趣があり,歴史家タキトゥスの鋭利な人物描写の冴えとともに忘れがたい。しかし伝記ジャンルのめざましい発達は,やはりルネサンス以降の話で,とくにイタリアのバザーリによる《もっともすぐれた画家,彫刻家,建築家の生涯》(《芸術家列伝》,1550)は,その顔ぶれの包括的なこと,多様なエピソードの織りこみ方の巧みさできわだっている。…

【ラテン文学】より

…ほかにウェレイウス・パテルクルスVelleius Paterculus,クルティウス・ルフスCurtius Rufus,フロルスなどの歴史家の名がみられる。またそのほかの散文作家には,小説《サテュリコン》の作者ペトロニウス,百科全書《博物誌》の著者の大プリニウス,《書簡集》を残した雄弁家の小プリニウス,農学書を残したコルメラ,2世紀に入って,《皇帝伝》と《名士伝》を著した伝記作家スエトニウス,哲学者で小説《黄金のろば(転身物語)》の作者アプレイウス,《アッティカ夜話》の著者ゲリウスなどがいる。 詩の分野ではセネカの悲劇のほかに,叙事詩ではルカヌスの《内乱(ファルサリア)》,シリウス・イタリクスの《プニカ》,ウァレリウス・フラックスの《アルゴナウティカ》,スタティウスの《テバイス》と《アキレイス》など,叙事詩以外ではマニリウスの教訓詩《天文譜》,ファエドルスの《寓話》,カルプルニウスCalpurniusの《牧歌》,マルティアリスの《エピグランマ》,それにペルシウスとユウェナリスそれぞれの《風刺詩》などがみられる。…

※「皇帝伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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