改訂新版 世界大百科事典 「皇帝伝」の意味・わかりやすい解説
皇帝伝 (こうていでん)
De vita caesarum
1世紀のローマの伝記作者スエトニウスの著したユリウス・カエサルからドミティアヌスに至る12人の皇帝の伝記。《皇帝列伝》《十二皇帝伝》などとも訳される。冒頭の一部を除いてほぼ完全に現在まで伝えられている。本書は,主題に対する関心の強さと簡潔な文体で近世に至るまで伝記の模範とされた。各章は主人公の出自に始まり,生い立ちから帝位に就くまでを記述する。次に個々人に応じてその人物の性格,行動が描かれ,多くの逸話が挿入される。終末部には主人公の死の模様が語られ,時にその肉体的特徴,個人的性癖が付け加えられている。スエトニウスの伝記が彼以前の歴史記述,伝記やほぼ同時代の伝記作者プルタルコスの《英雄伝》ととくに異なっているのは,題材が編年的に取り扱われていない点にあり,歴史的関心が薄かったと思われる。また,以前に書かれたさまざまな文書からの直接引用を導入したスタイルは,以後ゲリウスやマクロビウスに受け継がれていった。
執筆者:平田 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報