日本大百科全書(ニッポニカ) 「スエトニウス」の意味・わかりやすい解説
スエトニウス
すえとにうす
Gaius Suetonius Tranquillus
(70ころ―160ころ)
ローマ帝政初期の伝記作家。小プリニウスの友人。ローマの騎士階級の家の生まれ。ハドリアヌス帝の秘書を務めたが、121年(一説では122年)皇帝の不興を買い解雇されてからは著作に専念した。かなりの長命であったが、晩年についてはよく知られていない。現存する2作品からは伝記作家の印象が強いが、伝記以外にも多岐にわたる主題についてラテン語とギリシア語で著述を行った。『名士伝』は、詩人、文法家、修辞家、弁論家、歴史家の伝記で、大部分は散逸し、一部が現存するのみ。現存するものには、テレンティウス、ホラティウス、ルカヌスの伝記が含まれている。『皇帝伝』は、ほぼ完全に残っている彼の主要作品で、ユリウス・カエサルとアウグストゥス、ティベリウスからドミティアヌスに至るまでの合計12人の伝記である。これには、秘書時代に利用できた帝室古文書保管所の資料が生かされている。史的洞察には欠けるが、平明な文体による逸話の数々は興味深く、3世紀初めにはマリウス・マクシムスがこの続編を書いている。
[木村健治]
『角南一郎訳『ローマ皇帝伝 上』(1974・現代思潮社)』