出自(読み)シュツジ(英語表記)descent

翻訳|descent

デジタル大辞泉 「出自」の意味・読み・例文・類語

しゅつ‐じ【出自】

人の、生まれ。事物の出どころなどにもいう。「蕪村出自を尋ねる」
文化人類学で、個人が出生と同時に組み込まれる、特定祖先共通にする集団を決定する原理
[類語]生まれ出身出所お里身分貴賤きせん尊卑家格門地階級家柄

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精選版 日本国語大辞典 「出自」の意味・読み・例文・類語

しゅつ‐じ【出自】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「…自(よ)り出づ」の意 )
  2. うまれた家柄、血統土地など。また、物事の出どころ。出所(しゅっしょ)
    1. [初出の実例]「たれの腹と云ふことをたれの出自と云ふ。出自とは先祖のことなり」(出典:訳文筌蹄初編(1714‐15)五)
  3. ( ━する ) そこから血を引いていること。
    1. [初出の実例]「天武天皇に出自するわが豊原一族」(出典:体源抄由来(1965)〈唐木順三〉二)

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改訂新版 世界大百科事典 「出自」の意味・わかりやすい解説

出自 (しゅつじ)
descent

個人が親を通じて特定祖先と系譜的なつながりをもち,このつながりが,特定祖先を共有する集団またはカテゴリーの成員資格規準となる場合,個人を集団またはカテゴリーに所属させるこのような原則を出自という。系譜的なつながりとは,特定祖先に発して子孫(個人)へと至る連綿とした代々の親子関係であり,このような〈親子関係の連鎖filial links〉を通じて,集団またはカテゴリーへの所属権(メンバーシップ)が親から子へと伝達されていく。通常メンバーシップは,ある親のもとに生まれることによって生得的に獲得されるが,出自はあくまでも社会的に認知された親子関係とその連鎖を通じてたどられるので,〈養子縁組adoption〉によってメンバーシップが獲得され伝達される場合もある。

 出自はこのように,祖先からたどられる親子関係の連鎖によって,個人を集団またはカテゴリーに所属させる原則であるから,個人がどちらの親とのつながりを通じてメンバーシップを獲得するかという問題は長年の議論のあった点であり,メンバーシップの伝達様式にしたがって,どのような出自の型がありうるか,これまで幾多の類型化が試みられてきた。社会が出自に基づく明確な集団やカテゴリーによって分割された諸単位からなるものであるとすれば,出自の様式は,個人がいずれか一方の親の集団またはカテゴリーにのみ所属しうるような,排他的なメンバーシップの伝達様式でなければならない。このように一方の親,したがって一方の性によってメンバーシップの伝達を限定する様式を,出自の単系性unilinealityと称する。出自が単系的にたどられる様式には2種あり,父親を通じ出自がたどられる様式および型を父系出自patrilineal descentといい,母親を通じてたどられる様式および型を母系出自matrilineal descentという。さらに単系性の型として二重単系出自double unilineal descentがあるが,この型は父系出自の様式と母系出自の様式とを併用した型であり,父親からは父系出自をたどり母親からは母系出自をたどることによって,父親・母親双方の集団やカテゴリーに両属する状態の出自の型を示す。

 出自が単系的にたどられ,2様式の伝達様式をもって三つの出自の社会過程の型がありうることは,いかなる出自論においても承認されているが,それ以外の様式や型を認めるか否かについては理論的立脚点相違によって見解の一致をみておらず,様式や型の設定に関しても研究者の見解にちがいがある。単系出自unilineal descentに対して,親の性には拘泥しない様式,およびどちらの親からメンバーシップを獲得するかに関して選択余地のある様式を,総じて非単系出自non-unilineal descent,あるいは共系出自cognatic descentと称している。この様式にしたがって出自の社会過程の型を設定する研究者もいれば,そうしない者もいる。出自の型を設定するとすれば,選系出自ambilineal descent,択一系出自alternating descent,双系出自bilateral descentなどと称される型が研究者によってそれぞれ主張され用いられている。非単系出自や共系出自のこのような諸類型は,チョウの分類にも似ておびただしい型があり,その混乱が指摘されてきた。出自の様式および型を考えるにあたり重要なことは,親子関係の連鎖が所与の社会において,個人の集団またはカテゴリーへの成員資格規準として認識されているかいないかである。というのは,このような親子関係の連鎖が個人の集団またはカテゴリーの所属に際し,重要な成員資格の規準とはなっていない社会があるからであり,従来ややもすると〈親族kinship〉関係を出自関係と混同するような議論がみられ,議論の混乱を招く原因にもなってきた。

 出自の原則はかつては親族関係にとってより基本的な原則であるといわれ,かつまた出自の原則が世界のほとんどの社会において,構造上の基本原則であるとまで主張されていた。しかし今日では出自と親族とは,社会関係や社会集団あるいは社会的カテゴリーを形成するうえで,異なった原則であり,またしばしば相反する原則であるとして区別される傾向にあり,また,出自が世界を通じて支配的な原則であると主張する研究者も存在しなくなっている。
親族 →父系制 →母系制
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「出自」の意味・わかりやすい解説

出自
しゅつじ
descent

親子関係の世代的連鎖に基づく特定祖先への系統的帰属。この場合の親子関係は社会的に承認された親子関係であり,したがって必ずしも血縁であるとはかぎらないし,また生物学上の親子がすべて社会的な親子関係になるともかぎらない。親子関係の世代的連鎖に際して,父子関係もしくは母子関係のいずれか一方のみの連鎖をたどるものを単系出自 unilineal descentといい,父系出自と母系出自とがある。父子関係と母子関係のいずれかを選択できるものを選択的単系出自 ambilineal descentといい,父子関係と母子関係のいずれをもたどるものを双系出自 bilateral descentという。

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世界大百科事典(旧版)内の出自の言及

【家筋】より

…したがって家は同じ稲の種子を代々伝達していく集団を意味していた。 祖先と子孫の関係を理解する場合には基本的に出自,相続,継承の三つが重要である。出自はどのような関係の祖先を祖先と考えて出自集団を構成するかという問題であり,祖先中心的な親族組織の構成原理をなすものである。…

【父系制】より

…狭義には父系出自のもつ規制,すなわち集団の成員権が父親を通じて,代々子供に伝えられていく出自の規制を意味しており,このような規制にもとづく集団を〈父系出自集団patrilineal descent group〉と称している。図のように自分(EGO)が所属するところの父系出自集団の成員を示せば,つぎのようになる。…

【母系制】より

…狭義には母系出自のもつ規制をいう。すなわち集団の成員権が母親を通じて代々子供に伝えられていく出自の規制をいい,このような規制にもとづく集団を〈母系出自集団matrilineal descent group〉と称している。…

※「出自」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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