日本大百科全書(ニッポニカ) 「硝化抑制剤」の意味・わかりやすい解説
硝化抑制剤
しょうかよくせいざい
肥料中の窒素成分が硝酸態になるのを抑制し、土壌に吸着しやすいアンモニア態のままで長く存在することを目的として開発された薬剤で、肥料に混入して用いられる。硫安、尿素などの硝酸態でない窒素質肥料でも、普通の状態では、土壌中の微生物の作用を受けて最終的には硝酸態窒素に変わってしまう。硝酸態窒素は土壌に保持されにくく、畑地では雨水などで簡単に流れてしまう。また、水田のような酸素の不足した状態では、窒素ガスに還元されて大気中に損失し、農耕地から発生する亜酸化窒素による地球温暖化の原因となる。また、地下水の硝酸汚染の原因ともなる。このような損失を最小限にとどめるために用いられるのが硝化抑制剤である。アンモニア態窒素が硝酸になる(硝化作用)のは硝酸化成菌の働きによるので、硝化抑制剤は一種の殺菌剤である。日本で最初に使用されたのはチオ尿素で、もっとも有名なのはニトラピリン(N-サーブ)である。このほか2-アミノ-4-クロロ-6-メチルピリミジン(AM)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジシアンジアミドなどが化成肥料中に混合され販売されている。日本では硝化抑制剤入りの化成肥料の生産量は、経済性と安全性の面から問題があるため、あまり多くないが、亜酸化窒素の削減効果が高く地球温暖化防止への貢献が期待されている。硝化抑制剤の効果は通常、散布後3週間ないし1か月程度とされる。
[小山雄生]
『伊達昇・塩崎尚郎編著『肥料便覧』第5版(1997・農山漁村文化協会)』▽『肥料協会新聞部編『肥料年鑑』各年版(肥料協会)』