硫安(読み)リュウアン

デジタル大辞泉 「硫安」の意味・読み・例文・類語

りゅう‐あん〔リウ‐〕【硫安】

硫酸アンモニウム通称

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精選版 日本国語大辞典 「硫安」の意味・読み・例文・類語

りゅう‐あんリウ‥【硫安】

  1. 〘 名詞 〙りゅうさんアンモニウム(硫酸━)」の略称。
    1. [初出の実例]「除虫薬も、除草薬も、硫安も、ヘリコプターで撒いてくれる」(出典:凩(1971)〈水上勉〉三)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「硫安」の意味・わかりやすい解説

硫安
りゅうあん

硫酸アンモニウムの工業上の慣用名で、セロファン、皮なめし、食品添加物などにも使われる、もっとも代表的な化学肥料である。速効性の窒素肥料で、窒素肥料の肥効は硫安を基準として評価されることが多い。日本で硫安が初めて使用されたのは1896年(明治29)にさかのぼる。国産化はその5年後で、東京瓦斯(ガス)が副産物として生産を開始したのが最初である。

 硫安は(NH4)2SO4化学組成をもち、水によく溶ける無色透明の結晶であるが、回収副生硫安(後述)の場合には不純物のため着色していることがある。純品は窒素21.2%を含有するが、肥料用はアンモニア性窒素20.5%以上と規定されている。土壌に吸着されやすく、基肥にも追肥にも適しており、吸湿性もなく取扱いの容易な優れた肥料である。水稲、豆類、ミカン、チャ(茶)、ワタ(綿)など硫黄(いおう)を好む作物ではとくに好適な肥料である。しかし、化学的には中性であるが、副成分の硫酸の影響で土壌中の石灰、苦土の流亡を助長して土壌を酸性にする欠点があるので石灰を補給する必要があるが、硫安と石灰を直接混合するとアンモニアとして大気中に失われ、かなりの損失をおこすので、注意しなければならない。また、鉄の欠乏した老朽化水田では硫酸が土壌中で還元されて硫化水素となり、イネの根を傷め減収を招くので、施してはならない。

 硫安の種類には、原料のアンモニアと硫酸の中和反応によってつくられる合成硫安コークスの製造や重油の直接脱硫など石炭や石油中の窒素化合物から副産物として得られる副生硫安、ナイロン原料のカプロラクタム製造など、いったんほかの用途に用いたのちさらに残存するアンモニアまたは硫酸を硫安として回収した回収硫安がある。

 現在日本で製造される硫安は、回収硫安が生産量の約80%を占めもっとも多い。1958年(昭和33)には年産260万トンに達した硫安も、尿素や塩安など他の化学肥料の生産拡大と消費の低落で、2010年(平成22)には132万トンと落ち込んでいる。

[小山雄生]

『伊達昇・塩崎尚郎編著『肥料便覧』第5版(1997・農山漁村文化協会)』『肥料協会新聞部編『肥料年鑑』各年版(肥料協会)』

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改訂新版 世界大百科事典 「硫安」の意味・わかりやすい解説

硫安 (りゅうあん)

硫酸とアンモニウムが結合した代表的な窒素肥料。日本で硫安が使用されたのは,1896年オーストラリアから副生硫安として5t輸入されたときからである。国産硫安は1901年に東京瓦斯(株)が副生物として生産を開始してからである。年間生産量は,大正初めに7000tだったのが,20年8万t前後,30年26万t,41年124万tとなったが,45年には24万tと激減した。しかし国家の援助をうけて立ち直り,50年150万t,58年260万tとなったが,以降,塩安や尿素が窒素肥料として用いられ始めたことや輸出不振などで漸減している。

 硫安は速効性の窒素肥料であり,元肥にも追肥にも用いられる。また硫酸根を含み,植物に窒素のほかに硫黄も供給する。土壌に硫安を施用するとアンモニアのほうが硫酸より速やかに吸収されて硫酸根が土に残る。また畑ではアンモニアが硝化されて硝酸イオンとなり,生成した硝酸イオンが雨水に流されて流亡するとき,石灰分など塩基をいっしょに溶脱する。これらは土壌を酸性化する原因ともなるので,硫安は酸性肥料とされる。また水田では硫酸根が還元されて硫化水素になりやすいので,鉄分の少ない老朽化水田ではイネに害を及ぼす。硫化水素の発生による被害は,水田の還元が進む夏以降のイネの出穂から稔実期に多くなるので,いわゆる秋落ちとなる。塩安や尿素が日本で多く用いられるようになったのは,秋落ちや酸性化の防止のためである。しかし最近は硫黄の少ない農地があり,硫酸根の施与が望まれる場合もあり,また植物には硫黄を好むもの(豆類,ミカン,チャ,牧草,ワタなど)もあり,硫安は広く用いられている。

 硫安は酸性肥料なので,施用にあたっては土を酸性化しないように石灰肥料も併用するが,両者を直接混合すると,アンモニアの揮散が生ずるので注意が必要である。
硫酸アンモニウム
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化学辞典 第2版 「硫安」の解説

硫安
リュウアン
ammonium sulfate

工業用および農業用硫酸アンモニウム(NH4)2SO4の略称.硫酸アンモニウムを主成分とする代表的な窒素肥料の一つ.N 20.0~20.8%.硫酸とアンモニアから直接合成するか,これらを成分として含む物質から合成するかの二通りの製造方法がある.原料の種類,製造方式により名称が異なる.以下( )内は原料である.合成硫安(合成アンモニア,硫酸),セッコウ法硫安(アンモニア,二酸化炭素,セッコウ),亜硫酸法硫安(アンモニア,二酸化硫黄),変成硫安(石灰窒素,硫酸),副生硫安(石炭乾留副生アンモニア,硫酸),回収硫安(湿式リン酸副生セッコウ,各種廃硫酸,モンド法ニッケル抽出廃アンモニア水などを原料とするもの,カプロラクタム製造中にアンモニアで硫酸を中和する工程で得られるもの).代表的な合成硫安の製造工程は,硫酸によるアンモニアの中和法で,

   2NH3(g) + H2SO4(l) → (NH4)2SO4 + 276 kJ    

の反応による.飽和器に硫酸を送り,アンモニアを吸収させ中和する.98% 硫酸を70% に希釈し,添加水分の蒸発により中和熱を除いて温度調節を行い,108 ℃ に保つ.空気か水蒸気でNH3を10% 程度に薄めて用い,温度,遊離硫酸量,結晶の大きさを調節する.母液は沈殿槽→遠心分離→乾燥器を経て結晶製品を得る.不純物の三価イオン(Fe3+,Al3+ など)の存在で結晶成長が妨げられ,粒子は小さくなる.原単位は(NH4)2SO41 t に対して,H2SO4(100%)750 kg,NH3263 kg,水蒸気250 kg である.[別用語参照]化学肥料肥料

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百科事典マイペディア 「硫安」の意味・わかりやすい解説

硫安【りゅうあん】

硫酸アンモニウム

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「硫安」の意味・わかりやすい解説

硫安
りゅうあん

「硫酸アンモニウム」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の硫安の言及

【化学工業】より

…このなかで重要なのは,1906年に開発された,空中窒素固定法の一つであるフランク=カロー法の特許実施権を08年に日本窒素肥料(現,チッソ)が購入し,翌09年水俣工場の完成で石灰窒素の生産を行ったことである。石灰窒素は施肥技術上の困難もあって肥料としての販売が思うにまかせなかったので,これを蒸気で分解してアンモニアをとり出し,このアンモニアを硫酸と化合させて硫酸アンモニウム(硫安)にして販売された。いわゆる変成硫安である。…

【窒素肥料】より

… 19世紀半ばまでは窒素肥料として用いられたのは動植物質有機質肥料だけであったが,1802年にペルーでグアノ(海鳥糞の堆積物)が発見されて肥料に利用されはじめ,また,30年ころにはチリのチリ硝石NaNO3が肥料として利用されるようになった。化学的に合成された窒素肥料としては1906年に石灰窒素がつくられ,13年にはハーバー=ボッシュ法による合成硫安製造の工業化が開始され,しだいに化学肥料が窒素肥料の主体となった。 窒素は多くの農作物で最も不足しやすい成分であるが,多すぎると作物の徒長や品質の低下を招き,ときには土を劣悪化し,また土から流亡して周辺の河川水や地下水を汚染し水質を低下させ,あるいは土からガス体のN2O,NO2,NH3などとして揮散し作物に被害を与える。…

【硫酸アンモニウム】より

…天然には,ベスビオ火山およびエトナ火山の昇華物としてマスカグニ石mascagniteが知られている。硫安の名で生産され,窒素質肥料の一種である。 無色斜方晶系の結晶。…

※「硫安」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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