改訂新版 世界大百科事典 「硫酸エステル」の意味・わかりやすい解説
硫酸エステル (りゅうさんエステル)
sulfuric ester
二塩基酸である硫酸(HO)2SO2の水素原子1個または2個が炭化水素基Rで置換された化合物の総称。酸性エステル(モノエステル)RO-SO2-OHと中性エステル(ジエステル)RO-SO2-ORの2種類が存在する。
酸性エステルはアルコールに濃硫酸または発煙硫酸を作用させると生成する。また,アルケンに硫酸を付加しても得られる。
酸性エステルは粘稠な液体で蒸留できない。水に溶け,加熱すると加水分解されてアルコールとなる。この反応はアルコールの実験室的製法として利用できる。遊離エステルはかなり不安定であるが,金属Mとの塩(アルキル硫酸塩)RO-SO2-OMは安定で界面活性剤として用いられる。カルシウム塩やバリウム塩も硫酸塩と異なり水に溶ける。中性エステルは過剰のアルケンを硫酸と反応させることにより工業的に製造される。重い油状の液体で,水には溶けにくいが徐々に加水分解される。ジメチルエーテルとSO3から工業的につくられる硫酸ジメチルdimethyl sulfate (CH3O)2SO2(融点-31.4℃,沸点187.5℃)は,水酸基-OHやアミノ基-NH2をメトキシル基-OCH3またはメチルアミノ基-NHCH3に導くメチル化試薬としてよく用いられる。ただし猛毒で,皮膚からも吸収されるので取扱いには注意を要する。
執筆者:小林 啓二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報