出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ルーマニア人を父,フランス人を母として,ルーマニアのスラチナで生まれ,13歳までフランスで育ち,ブカレスト大学に学んだ後,1938年にパリに戻る。48年に英会話の教科書をもじって,日常的な形式論理の無意味さや会話による意思疎通の不可能,それに伴う言語の解体,その帰結としての精神の崩壊という現代人の不安を如実に舞台化した《禿の女歌手La cantatrice chauve》(1950)を書き,〈反戯曲〉と副題をつける。さらに,言葉や事物がひとり歩きや自己増殖を始めて人間を圧倒する恐怖を黒いユーモアのうちに描く一幕物《授業La leçon》(1951)や《椅子Les chaises》(1952)などを発表し,50年代半ば以降いわゆる不条理劇の代表のひとりとして国際的評価を受ける。…
…〈不条理〉という概念は,すでにA.カミュなどに代表される実存主義の作品に認められるが,表現方法として従来の論理的思考に基づく劇作法を完全に否定したところが,不条理劇の特徴である。E.イヨネスコの処女作とされる《禿(はげ)の女歌手La cantatrice chauve》(1950)が,〈反戯曲(アンチ・ピエス)〉とも題されていたように,それは従来の劇作法を徹底的に愚弄するものであった。イギリス風の中流家庭でのイギリス風の夫婦の会話に始まるこの劇では,言語は日常性の意味を離れて核分裂し,それを語る人間のアイデンティティさえも崩壊させてしまう。…
…それにひきかえ,50年代の前衛劇は世界の不条理を舞台上の不条理に置きかえて提示する。たとえばイヨネスコの《禿の女歌手La cantatrice chauve》(1950)では日常的な会話の意味がしだいに失われ,文章,語,シラブルの間の論理的・文法的つながりが次々と欠落して言語が解体し登場人物が母音のみを叫び合うに至る過程が示され,ベケットの《ゴドーを待ちながらEn attendant Godot》(1953)では登場人物がいつまでも来そうもなく,誰ともわからない人物をなぜかわからないまま待ち続ける間の暇つぶしの無意味なお喋りと遊びが延々と続くだけで終わる。すなわち,観客の目前で不条理な内容が不条理に演ぜられるのがこれらの演劇の特徴であるといえよう。…
…ミュージカルの長期公演記録としては,《マイ・フェア・レディ》の2717回がある。アメリカだけでなくロンドンやパリの劇場でもこの方式が成功して,前者ではA.クリスティの《ねずみとり》,後者ではE.イヨネスコの《禿の女歌手》が,20年をこえて現在でも興行を続けている例がある。【戸張 智雄】。…
※「禿の女歌手」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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