日本大百科全書(ニッポニカ)「客間」の解説
客間
きゃくま
住宅において、客を通し応接するための部屋。訪れる人を通す部屋としては、平安時代の寝殿造の住宅における出居(でい)が明らかになる最初であるが、かならずしもそのために特定の部屋がつくられたのではなく、二棟廊(ふたむねろう)や廂(ひさし)の一部が使われている。身分の高い訪問者をもてなすことが一般的になったのは中世に入ってからで、主殿造の住宅では主殿の中央の部屋が客間にあてられていた。江戸時代の初めには接客のしきたりも定まり、書院造の住宅では書院とよばれる二棟の建物が接客のために使われるようになった。近代の都市住宅では、江戸時代以来の書院の伝統を継ぐ和風の座敷と、明治以降洋風の生活様式が入ってきてできた洋風の応接間とが接客のために用意されるのが普通である。しかし、客間、すなわち座敷と応接間は、通常南に面する日当りのよい場所につくられ、面積も広く、北側の日が当たらない場所に茶の間など生活にあてる部分が回されていたために、明治末期ごろからしだいに強くなる生活改善運動では「接客本位を改め家族本位に」の住宅改良の旗印の下で真っ先に排斥されることになる。第二次世界大戦前には、生活改善運動の進展にもかかわらず、客間が一般の都市住宅から消滅はしなかったが、敗戦直後の都市住宅では、生活改善運動の成果をまつまでもなく、経済的な事情や材料の不足から、応接間も座敷もつくれなくなり、失われてしまった。その後も土地の事情や経済的な事情から都市住宅では客間を設けられない家が多くなり、独立した居間がある場合には、親しい間柄なら居間に客を通すことになる。したがって、居間が客間の性格を帯び、本来の家族のだんらんの場としての機能が阻害されている。
外国、たとえばイギリスではゲスト・ルームguest roomが客間にあたるが、これは日本の客間とは機能が違い、主として宿泊客のための居室で、家族個々人の寝室と同様に寝台や衣装掛け、机と椅子(いす)などを備え、便所、風呂(ふろ)、化粧室を付属しているのが普通である(同様の機能をもつホテルにおける客の宿泊室をもguest roomとよんでいる)。客は家族とともに食堂で食事をし、居間でだんらんの時を過ごす。このような客間はヨーロッパやアメリカの住宅では一般的である。それに対して日本ではゲスト・ルームに相当する部屋はなく、床の間のある座敷に客を泊めていた。
[平井 聖]