立回(読み)たちまわる

精選版 日本国語大辞典 「立回」の意味・読み・例文・類語

たち‐まわ・る ‥まはる【立回】

〘自ラ五(四)〙
① あちこち歩きまわる。うろうろする。徘徊する。たちめぐる。
古今著聞集(1254)二〇「この鷹を立廻立廻見て、あはれ逸物上なきものなり」
② 人や物の後方にまわりこむ。
平家(13C前)一一「重房が郎等太刀をひきそばめて、左の方より御うしろに立まはり
③ 奔走する。いろいろと世話をする。また、人々の間を歩きまわって、自分に有利になるように工作する。要領よく行動する。
曾我物語(南北朝頃)六「三浦の人々、いかにいさみみだれ入とも、何となくたちまはり」
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「娘が思ふやうに、如才なくたちまはらんので、それで歯癢がって」
④ 出向く。外出した人が出先である所に立ち寄る。また、犯罪容疑者や犯人が逃走中に立ち寄る。
梅津政景日記‐慶長一七年(1612)九月四日「北山平に盗人十人斗立まはり候由」
融通が利く。自由になる。また、生活などがなりたっていくようになる。
滑稽本東海道中膝栗毛発端(1814)「主人の気にいり、忽小銭の立まはる身分となり」
芝居や映画の演技で、格闘をする。
歌舞伎彩入御伽草(1808)辻堂の場「『ウヌ』トかかるを、見事に立廻(タチマハ)って」

たち‐まわり ‥まはり【立回】

〘名〙
① 立ち居ふるまいの様子。挙動
※三河物語(1626頃)三「御座敷の内にても、立まわりのよき者が、地行を取と見へたり」
※評判記・難波鉦(1680)六「言葉遣い、立まはり、物くひ、身あつかいでしれます」
② 能で、歌詞を伴わないで、大鼓(おおつづみ)・小鼓・太鼓のはやしに笛のあしらいで、シテが舞台の上を静かに歩きまわる動作。大鼓・小鼓・笛のはいる大小立回りと太鼓のはいる太鼓入り立回りとがある。「百万(ひゃくまん)」の子を探す時などに用いられる。
③ 芝居や映画の演技で、斬り合ったり、格闘をしたりすること。殺陣(たて)。元来は歌舞伎用語。
※歌舞妓事始(1762)二「大勢相手にして太刀打するをたてといひ、少しき事は立ち廻りといひ」
けんかをすること。つかみあい取っ組みあって暴れること。
道草(1915)〈夏目漱石〉五「二人の立(タ)ち廻(マハ)りは今姉の自白するやうに受身のものばかりでは決してなかった」
⑤ 自分が有利になるように、要領よく行動すること。
苦心学友(1930)〈佐々木邦〉石炭泥棒「『正直なものは損をする。なあ、横田』『うむ、おれ達は馬鹿さ。皆立(タ)ち廻(マハ)りがうまいのさ』」

たち‐めぐ・る【立回】

〘自ラ四〙
① あちこち歩きまわる。めぐり歩く。立ちまわる。
※源氏(1001‐14頃)宿木「この度ばかりこそ見めとおぼして、たちめぐりつつ見給へば」
② 世の中に出て、人と交わって暮らす。
※十訓抄(1252)八「人の身の上にさまざまのくるしみあり。これを忍ずば世に立めぐるべからず」
③ 周囲をとりかこむようにして立つ。
※躬恒集(924頃)「わがやどにさきたるむめのたちめぐりすぎてにいぬるひともみるらむ」
④ 時がたつ。年月がめぐり来る。
※帰省(1890)〈宮崎湖処子〉一「今は早や吾述懐に終身悲しかるべき秋(とき)立ち囘(メグ)り」

たて‐めぐら・す【立回】

〘他サ五(四)〙 =たてまわす(立回)
※米沢本沙石集(1283)一〇末「年(とし)たけたるみこ、赤き弊ども立てめくらして、やうやうに作法して後」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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